経皮吸収型製剤使用時の個人間差に対する基礎研究からのアプローチ

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  • 槇原 弘子
    横浜市立大学大学院医学研究科 看護生命科学分野/周麻酔期看護学分野

抄録

<p>人体最大の臓器である皮膚組織は、外界から身体を保護し体内への異物侵入を防ぐバリア機能をもつ。そのため、皮膚組織には化学物質などに対する代 謝機能があり、様々な代謝酵素が発現している。一方で皮膚組織は、全身作用 を目的とした経皮吸収型製剤から有効成分を吸収する部位としての機能も担う。 皮膚から吸収された薬物は直接体循環に移行するため、肝臓での代謝(初回通 過効果)の回避が可能である。また、長時間持続した有効血中濃度の維持、嚥 下困難な患者への投与、第 3 者による薬の使用状況の確認が容易といった多く の利点を有する。本邦でも多くの医療機関において経皮吸収型製剤が使用され ている。</p><p>経皮吸収型製剤には、得られる効果に対し、「個人間差」という課題が報告さ れている。この課題に対し、我々は皮膚組織における薬物の代謝が個人間差に 関与している可能性について基礎研究から検証してきた。皮膚組織で発現する 代謝酵素には、多くの薬物の代謝に寄与するチトクロム P450 酵素(CYP)が含 まれている。先行研究では、ヒト皮膚組織において、複数の CYP 分子種の発現 が確認されており、経皮吸収製剤である女性ホルモン剤のエストラジオール、オ ピオイド鎮痛薬のフェンタニル、尿失禁・頻尿治療薬であるオキシブチニンなど の代謝に関わるCYP3A4も含まれている。CYP の発現には人種差があること が知られるが、皮膚組織におけるCYP の解析は少数例での検証にとどまってお り、日本人の CYP の特徴は明らかとなっていない。皮膚におけるCYP タンパク 質の発現レベルは肝臓よりも低く、薬物代謝への関与は低いとの見方もある。し かし、皮膚内の薬物代謝酵素の CYP が経皮吸収型製剤の薬物代謝にどの程 度関与しているのかは完全に明確化されていないため、日本人の皮膚組織を解 析しその知見を積み重ねていくことは有用だと考えた。</p><p>そこで我々は、皮膚組織中の CYP 分子種の遺伝子発現量を解析することに よって、皮膚組織中の薬物代謝の個人間差について検証することとした。今回は その中から、肝臓ではCYP3A4の発現や活性に影響することが知られている「肥 満」と皮膚の CYP3A4 発現量の関連と、日本人における発現量の個人間差につ いての結果を中心として、これまで明らかになった知見を紹介する。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390578149752748160
  • DOI
    10.34597/npc.2023.1.0_s1-3
  • ISSN
    24358460
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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