看護学における産学連携

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抄録

<p>まずは、石川県珠洲市を代表する地震で被害にあわれた方々のお見舞い、ならびに他国から侵略、内戦などで亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表します。</p><p>魔の川・死の谷・ダーウィンの海をご存じですか? 私が初めてこの言葉を知ったのは、モノづくりで壁にぶつかったときでした。これは、出川通氏による著書『技術経営の考え方~MOTと開発ベンチャーの現場から~』(光 文社、2004)で提唱されました。技術の社会実装の過程では、魔の川は①研究~② 製品開発、死の谷は②製品開発~③事業化、ダーウィンの海は③事業化~④市場・ 産業化における各難所を示します。これは企業側からの利潤を追求したの見方です が、一方、アカデミアは、いかに真実を追求するかが使命といえます。いわば目的が異 なる二つの業界が、何をゴールに、どこに向かうのか、産学連携には様々な課題があります。</p><p>看護学は実践科学であり、新しく見出された理論や技術が現場で使われてこそ、 看護が進化します。我々看護職は、最も療養者の傍にいて、相手の立場に立ち、症 状緩和をリアルタイムに求められる職業です。いわば、対象者の肉薄するニーズを直 接見い出すことが看護研究の基本となり、現象を質・量で言語化することができます。 冒頭に触れたモノづくりの壁とは、ニーズを見い出しただけで、前述した魔の川を渡っ ていないことだと理解しました。</p><p>看護での産学連携に求められることは? 私が最初に行った産学連携は 30 年前でした。日本の褥瘡保有率が 6%以上あったときに、現場のナースが教科書通りに 2 時間ごとに体位変換しても褥瘡が発生する現 場を目の当たりにして、その原因について調査した結果、日本人の身体に適した体圧 分散寝具が無いことが明確になりました。この結果を基に、2 層性の圧切り替えエア マットレスの構造を考え、その設計図を関係する企業に説明に回りましたが、どの会 社も看護・介護に必要な機器には興味がなく、取りあってくれませんでした。いわゆる 魔の川の渕に立っていた時です。その後、ベンチャーだった一つの企業が製品化に協 力してくれ、川をわたることができましたが、次に待ち受けた死の谷は、高額すぎて事 業化できないことでした。しかし、今では現場で当たり前のように使われる体圧分散 寝具となり、ダーウィンの海も渡ることができました。このプロセスで、私達研究者に 求められたのが、実態調査研究、臨床研究、実装研究でした。何が成功の鍵になっ たか?それは同じ目標、方法を共有することであり、それこそが看護理工学の理論で した。ここでは、ある産学連携の事例を示すとともに、その基盤となる看護理工学に ついて解説したいと思います。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390578149752792064
  • DOI
    10.34597/npc.2023.1.0_sp-1
  • ISSN
    24358460
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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