シングルケースデザインをどう考えるか:個に寄り添う科学と実践

説明

<p>シングルケースデザイン(single case design; SCD)は,推測統計学と実験計画法に支えられたランダム化比較試験(randomized controlled trial; RCT)とは方向の異なる科学的研究法と実践のあり方を提案する。これまでの心理学,殊に実験心理学的研究で支配的な(そして言うまでもなく医学等の生命科学においても支配的な)RCTの使用については,2015年ころから起こった「再現性の危機」における問題提起をその背景としつつ,メタ分析の活用や効果量などの指標の利用といった様々な新しい提案がなされてきた。その一方で,個体の行動を対象とした実験室での研究に基づく行動分析学では,その初期から,個体の行動を制御していると考えられる原因を,その遺伝的資質,誕生からの環境との履歴,現在の環境条件,の3つに求めるために,個別の個体の行動を変容させる変数への種々の操作を系統的に行ってきており,それらは実験法や分析法として次第に整理され,現在SCDの名でまとめられてきた。系列依存性の問題からRCTで開発されてきた統計法を用いることが難しいために,1980年くらいまでは,主に目視を中心とした要因効果の判定に制約されてきたが,高速の計算が手近なものとなり,充実したソフトウェアが利用できるようになるに従って,効果判定に様々な数学的な手法が開発されるようになってきた。そして現在では,教育科学,看護科学の分野においても,SCDを用いた研究を見出せるようになってきた。</p><p>本シンポジウムでは,こうしたSCDについての基本的な考え方からはじまり,現在の学界におけるSCDについての動向,SCDの運用と効果判定の技法,SCDの限界とその突破,実践場面でのSCDの研究法や分析法,経験に基づくノウハウや困難な問題,など話題として提供していただきながら,「個に寄り添う」看護科学と心理科学が目指す,共通の科学と実践について討議していきたいと考えている。</p>

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