地獄谷野猿公苑のニホンザル(<i>Macaca fuscata</i>)集団における温泉での水飲み行動:川との比較による体温維持仮説の検証

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タイトル別名
  • The hot spring drinking behavior of Japanese macaques (<i>Macaca fuscata</i>) living in Jigokudani Yaen-koen.: Testing the thermoregulation hypothesis at the hot spring in comparison with the river

抄録

<p>長野県の地獄谷野猿公苑に生息するニホンザル餌付け群は温泉入浴をすることで知られている。入浴行動は寒冷地における体温調節を目的としたものと考えられている。ニホンザルの温泉利用として入浴の他に水飲み行動が観察でき、川でも観察できた。樹上性の霊長類では病気や寄生虫、捕食者などのリスクを避けるために食べ物から水分を得ることが多く、樹上の水源を利用することはあっても地上の水源を利用することは少ない。また、地上性の種でもリスクの回避や特別な栄養の摂取のために樹上の水源を利用することがある。半樹上性のニホンザルが地上の水源である温泉水を飲用するのは、単に水分を摂取する以上の特別な恩恵を得るためである可能性がある。本研究では、地獄谷野猿公苑のニホンザル餌付け群の温泉での水飲み行動が、入浴行動のように冬場の体温調節行動として機能しているという仮説について検証した。調査は2022年8月と2022年12月に、長野県下高井郡の地獄谷野猿公苑のニホンザル餌付け群を対象として行った。行動サンプリングと定点カメラの画角内での個体追跡サンプリングの併用による観察を行い、水飲み行動の場所間(川と温泉)、季節間(夏と冬)の比較を行った。その結果、夏冬の両方で、水飲み行動の頻度の多さや各個体が水を飲んでいる時間の長さは温泉の方が川よりも大きいことが分かった。このことは地獄谷ニホンザルの水飲み行動に関して温泉水が川の水よりも優先されることを示しており、すなわち温泉での水飲み行動の機能が水分摂取のみではないことを示している。しかし、温泉での水飲み行動の頻度には夏と冬で有意な差は認められなかった。さらに、気温と水飲み回数の間には有意な相関は認められなかった。これらのことは温泉での水飲み行動の体温維持仮説を支持しない結果である。全体として、地獄谷ニホンザルの水飲み行動には体温調節や水分摂取以外の機能があることが示唆された。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390578371119407360
  • DOI
    10.14907/primate.39.0_30_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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