現代日本における位牌祭祀の持続と変容

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タイトル別名
  • Continuity and Changes in <i>Ihai</i> Worship in Contemporary Japan: Cases of <i>Ihai-wake</i> in Northern Gunma Prefecture in the Last 30 Years
  • ―群馬県北部「位牌分け」地域の三〇年―

抄録

<p> 本稿は、葬送墓制の現代的状況のもとで今まさに変化しつつある位牌祭祀の現状を、事例分析を通して解明しようとする論文である。その方法は、一九八〇年代に群馬県北部農村で実施された「位牌分け」調査の対象世帯を再調査し、この三〇年間の位牌祭祀の持続と変容の様相を明らかにするとともに、地域の環境変化が位牌祭祀に及ぼした影響を分析するという手法である。分析の結果、対象地域ではこれまで行なわれてきた子どもたちへの「位牌分け」が現在も強固に維持されており、各家の仏壇には家の仏(代々の当主夫婦とその兄弟姉妹の位牌)と客仏(妻や母が分与された親の位牌)が等しく祀られていること、とくに世帯主の父母や祖父母など身近な死者の場合その傾向が著しいことを確認した。一方で、白木位牌のまま祀り続ける従来の方式から、より恒久的な塗位牌に作りかえる新しい方式へと変化したことで、代々の家の仏を優先的に塗位牌にかえる例が現われている。つまり、この地域では、家族にとって身近な死者であれば客仏も区別せずに祀るという自己指向的で世代限定的な祖先観と、始祖以来の家の仏を重視する始祖遡及的で超世代的な系譜的祖先観とが併存し、これまでベースとなってきた前者から後者へと移行しつつある動向がみてとれる。こうした位牌祭祀の変化の背景としては、葬祭業者の進出とホール葬の普及による地域独自の葬送文化の喪失、他方で寺の住職や葬祭業者のもたらす知識とその影響力の増大が考えられる。始祖以来の先祖代々を重視する系譜的な位牌祭祀が、「標準的」な祭祀形態として受け入れられたのはこうした事情による。また、親子の世帯分離と家屋の新改築も、白木位牌の整理・処分を促す要因であり、位牌祭祀の変化を助長したとみられる。地域外からもたらされる知識と「位牌分け」などの地域独自の死者・祖先観とのせめぎ合い、その中での地域住民の選択のプロセスを解明することが今後の課題である。</p>

収録刊行物

  • 日本民俗学

    日本民俗学 309 (0), 1-32, 2022-02-28

    一般社団法人 日本民俗学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390578448252720000
  • DOI
    10.34560/nihonminzokugaku.309.0_1
  • ISSN
    24358827
    04288653
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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