『五輪九字明秘密釈』の九字曼荼羅の背景

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タイトル別名
  • The Background of the Maṇḍala of the Nine Syllables in the <i>Gorin kuji myō himitsu shaku</i>
  • The Background of the Mandala of the Nine Syllables in the Gorin kuji myo himitsu shaku

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説明

<p> 本稿では,平安末期の真言僧覚鑁が著した『五輪九字明秘密釈』の「正入秘密真言門」中に説かれる「九字曼荼羅」に着目し,本曼荼羅の成立経緯と背景に関して考察を試みる.</p><p> 『五輪九字明秘密釈』所説の九字曼荼羅とは,阿弥陀仏の九字真言《oṃ》《a》《mṛ》《ta》《te》《se》《ha》《ra》《hūṃ》を核とする曼荼羅思想である.中央の観音,第一重の八葉蓮華に配置される八仏,第二重の八葉蓮華に配置される八大菩薩,および十二大供養菩薩といった要素から構成される.先行研究では,この曼荼羅を構成する要素が,どういった経論・儀軌・教説に由来するかについて,議論が蓄積されてきた.</p><p> 先ず,中央と第一重の八葉上の九尊に関しては,不空訳『無量寿如来観行供養儀軌』起源と見て間違いない.一方,第二重の八葉上に配される八大菩薩については,菩薩の選択と配列から,不空訳『八大菩薩曼荼羅経』由来とも考えられるが,『五輪九字明秘密釈』の場合,『八大菩薩曼荼羅経』には無い九字真言と八大菩薩の対応が説かれるという問題が残される.</p><p> この問題に関して,赤塚祐道氏は,中世期の密教僧が著した各種典籍を分析し,その中に記される「阿弥陀法」で用いられる密教瞑想法「字輪観」に関連して,九字真言と八大菩薩の対応が示されることを指摘する.さらに,その指摘に基づき,中世密教僧が用いた九字真言の字輪観が,『五輪九字明秘密釈』の九字曼荼羅の典拠と推測する.</p><p> 筆者も,赤塚氏の推測に同意する.しかし,現段階では,論拠が十分でないという問題も残る.本稿では,この課題の克服を目標に,『五輪九字明秘密釈』の九字曼荼羅と高山寺蔵『五臓曼荼羅』の一部記述の比較に取り組む.この比較を通じて,九字曼荼羅と字輪観が置き換え可能であること,両者が文脈の面で非常に近い位置にあることを明らかにする.</p>

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