ベトナム南部Can Don流域における分布型降雨流出モデルの開発と最適メッシュサイズの検討
書誌事項
- タイトル別名
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- Development of Distributed Rainfall Runoff Model and Evaluation of its Optimal Mesh Size in the Can Don Watershed in Southern Vietnam
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説明
本研究では,東南アジア新興諸国のようにデータが寡少な地域でも適用可能で,将来的な地域開発や気候変動に対する流出量の長期的変化を予測可能な降雨流出モデルの開発を目的とし,対象流域として,ベトナム南部に位置するCan Don流域を選択し,降雨の時空間的な不均一性や将来的な土地利用変化を反映可能なモデルとするため,分布型降雨流出モデルを構築した.さらに,分布型降雨流出モデルのメッシュサイズが計算流量に及ぼす影響にも着目し,7 種類のメッシュサイズを用いた流出解析を行い,それぞれの降雨流出特性や地形特性との関連から検討した.これらの結果を踏まえて,対象流域における最適メッシュサイズを提案した.まず,対象流域の流域境界,標高,土地利用,降雨量,貯水池流入量のデータを入手し,分布型降雨流出モデルへの入力データを作成した.この際,メッシュサイズの違いによる計算流量への影響を比較するため,450m,900m,1800m,2700m,3600m,4500m,9000mの7種類のメッシュデータを作成した.土地利用面積をより的確に反映させるため,流域を表現した各メッシュには森林,水田,畑地,市街地の土地利用別タンクモデルを導入した.さらに安定的な基底流成分を表現するため,流域全体に1つの流域地下水タンクを設けた.メッシュ間の雨水流動モデルの基礎方程式にはKinematic Wave法を採用し,運動方程式と連続式より,対象流域の貯水池流入量を日単位で計算した.計算期間は,各種データが揃った2004年~ 2010年の7年間とし,1年間ごとに流出計算を行った.降雨流出特性を調べた結果,大きく三つのことが分かった.一つ目に1 間の流量波形は450m〜4500mではほぼ変化せず,9000mで変化が目立ったこと.二つ目に,ピーク流量は,450m 〜 4500m で微小に減少し,4500m から9000mにかけての減少が大きくなっているということ.三つ目に,メッシュサイズによる累積流量の差はほぼないということである.また,計算時間はメッシュサイズが小さい程飛躍的に増大するということが分かった.以上の結果を踏まえて,計算時間も短く,1年間の流量波形,ピーク流量,総流量も適切に表現可能である4500mメッシュでの計算がCan Don流域においては最適と言える.以上のように本研究では,分布型降雨流出モデルに土地利用別タンクモデルを導入することで,東南アジアのデータ寡少地域で,降雨量,標高,土地利用といった少ないデータで流出量を計算できるモデルを開発できた.入力データを変えることで,他のデータが寡少な地域にも適用可能な,汎用性があるモデルが構築できたと言える.また,本モデルは,メッシュサイズにかかわらず,各土地利用の割合を一定に保つことができるので,450m〜4500mまではメッシュサイズの影響はほぼ受けず,流出解析を行うことができるとわかった.今後の課題としては,次の二点が挙げられる.まず,本研究の対象流域では観測降雨データは日データしか得ることが出来なかったので,洪水時の降雨流出特性を検討するためには時間データの比較検討が必要である.二つ目に,本研究では精度の高い観測流量が得られず,メッシュサイズによる流量再現精度の検討ができなかったので,精度が高い観測データが得られる流域での検討を通じ,メッシュサイズが分布型降雨流出モデルに及ぼす影響についてより詳しく検討し,再現精度がより高いモデルの構築を目指す.
収録刊行物
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- 九州大学大学院農学研究院学芸雑誌
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九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 78 (2), 33-70, 2023-09
九州大学大学院農学研究院
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390578979243963520
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- NII書誌ID
- AA11577672
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- DOI
- 10.15017/6796278
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- HANDLE
- 2324/6796278
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- ISSN
- 13470159
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- IRDB
- KAKEN