我々はなぜ切らねばならないのか

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書誌事項

タイトル別名
  • Legitimizing "The Reason We Cut"
  • Reconstruction of Slaughter by Meat-Selling Caste "Khadgi" in Nepal
  • ネパールの肉売りカースト「カドギ」による屠畜の再構築

抄録

<p>本稿では、「動物の首を切らねばならない理由」を正当化し続けることの意味を考察する。</p> <p>近年、ネパールでは衛生観念や動物福祉言説が浸透しつつある。また、政府が工場屠畜への移行を主導し、食肉産業の近代化が推進されている。従来カーストに基づく役割として屠畜・食肉加工や血の供儀を担ってきたカドギたちは、これらの社会の要請に適応し、政府と連携して食肉加工販売会社を設立するなど、カースト役割を彼らの職業として確立しつつある。</p> <p>他方で、同時に彼らは、カーストに根差した儀礼的実践にも熱心である。彼らは動物の首を切ることを、カースト役割や起源譚をもとに、「女神の守護人としての奉仕」等として正当化する。カドギをその1つのカーストとするネワール社会では、仏教とヒンドゥー教が混在した独特の信仰世界が形成されている。ネワールの人びとは、殺すことや傷つけることへの欲望の不在を意味する「アヒンサ (ahiṃsā)」を、美徳として尊重している。</p> <p>屠畜と近代化の関係を捉えた従来の研究では、屠畜が忌避すべきものとして他者化および不可視化され、それにより、屠畜に従事する人びとが周縁化あるいは排除されてしまうことが指摘されてきた。これに対し、本稿で浮き彫りになるのは、屠畜の理由を正当化し続けることで対話可能な内なる存在に留まり、関係するアクターを巻き込む形で屠畜の民俗知を再構築する実践である。</p>

収録刊行物

  • 文化人類学

    文化人類学 88 (1), 056-075, 2023-06-30

    日本文化人類学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390578990185804032
  • DOI
    10.14890/jjcanth.88.1_056
  • ISSN
    24240516
    13490648
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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