令和5年度春季大会 高校生による研究発表最優秀賞を受賞して

抄録

<p>受賞発表題目:「東京湾西岸におけるマルスズキ(Lateo Labrax Japonicus)の個体による耳石形状パターンの相違をもたらす原因の考察」</p><p>発表者:辻本 新(栄東高等学校)</p><p>ご挨拶</p><p> まずこの度は大変ありがたい賞を頂き光栄に思う。本研究を行うにあたり様々な方にご助言を頂いた。この場をお借りして御礼申し上げる。</p><p> 私自身今回が二度目の学会参加となり,学会とは何より学びの場であると考え,それを第一目標として臨んだ。今回はオンラインであったこともあり,他の参加者との交流は前回ほど密であったとはいえないが,それでも前回に勝るとも劣らない,素晴らしい学びを得ることができた。今後も機会があれば参加し,成長の糧としたいと考えている。</p><p>研究概要</p><p> 本研究は2019年に開始し現在も続けているマルスズキのサンプリング調査に端を発する。同調査の過程で当初年齢査定法として使用していた耳石の形状に二極化した変異(図1, 2)を確認し,他魚種においても同様の変異に関して論じた論文は確認できなかったため新規の知見を得られる可能性が非常に高いように考え,また耳石のその個体の過去の生態を反映する,natural tagとしての役割を考えると,マルスズキという種の,ひいては魚類の根本的な生態に結び付く可能性を期待し研究を開始した。</p><p> 本研究で使用するデータセットは先述した調査により個人で収集したものである。採取法は釣獲とし,そこから耳石形状を始め,サイズや重量等全24項目のデータを採取している。採取地点は主に東京湾西岸に限定しており,サンプル数は現在83個体に上る。</p><p> 仮説検証では演繹的分析と帰納的分析を行った。</p><p> 演繹的分析では大きく性別相違,性転換説,種の相違,交雑種,隠蔽種説,塩分濃度変化説の5つの仮説を建て,それぞれを検証した。</p><p> 性別相違は二極化した相違では定番だが有意な差はみられず,性転換説もマルスズキの性転換説は消極的であり学術的根拠が無い上に,耳石に性別が影響するという事実も確認されていないことから考えにくい。</p><p> 交雑種・隠蔽種に関しては,写真の検査で有意な差が見られた個体はいなかった為一時は棄却したが,同類のタイリクスズキとの交雑個体や隠蔽種であった場合,外見で見分けるのが非常に困難であることが指摘されているためDNA分析を中心に検証を進めていく。</p><p> 塩分濃度変化説は,マルスズキの摂餌のための長期遡上性を踏まえ,塩分濃度の異なる地点で生活をする同種の個体の耳石内Ca:Sr比が異なることが報告されている1)ことから考察したがt検定では有意な差は見受けられなかった。</p><p> 帰納的分析では図1の個体を切れ込みなし,個体群Aとし図2の個体を切れ込みあり,個体群Bとして採取データ23項目内で両個体群間に有意な差が見られないか検証した。</p><p> その中で,緯度経度を用いて数値的に各採取地点を表した分析で,一定の地点に個体群Aの個体が集中しているように思われた。そこで,地理情報分析支援システムMANDARAを使用して地図を生成した(図2)。これより図に示した通りの偏りを見てとれ,半径5 km以内に陸地がない海域を外洋と規定し,新分析項目「外洋に面しているか否か」を定めた。これをカイ二乗検定で検証すると,0.0008389という非常に高い有意差を検出した。</p><p> これにより採取地点が耳石形状変異に大きな影響を与えていることがわかったが,これはあくまで統計分析の結果にすぎず,間接要因であると考えられる。さらなる仮説検証が求められる。</p>

収録刊行物

  • 日本水産学会誌

    日本水産学会誌 89 (5), 497-497, 2023-09-15

    公益社団法人 日本水産学会

参考文献 (1)*注記

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