労働力送り出し転換期における促進の取り組みと送り出し機関の対応と課題

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Promotional Efforts and Related Institutional Responses and Challenges in the Transition of Labor Outbound Sending
  • Focusing on China's Foreign labor Cooperation Program
  • 中国の労働力海外送り出しプログラムを中心に

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 2010年代以降,中国の海外への労働力送り出し(「対外労務合作」)業界では「技能実習生離れ」が進んでいる.これに対して,政府は中小規模機関の参入規制の強化や,送り出し促進に関する新たな取り組みを進めている.しかし,国内の労働者問題がより重要になっていることや統計データの不足により,対外労務合作に関する研究が少ないと指摘されている.そのため,既存研究は関連制度の紹介や,技能実習生の送り出し旺盛期の個々の送り出し機関の設立経緯や利益構造を明らかにすると留まっており,技能実習生等の希望者が減少する中で,政府による新たな送出促進取り組みの施行が地方の関連アフターに与えた影響について検討されていない.</p><p>2.研究目的と研究手法</p><p> そこで,本報告では,労働力送り出し転換期における政府による新たな取り組みの施行に着目し,送り出し地域および送り出し機関等の対応と課題を分析する.その上で,労働力送り出し転換期における中国の特徴を明らかにする.事例として,「対外労務合作サービスプラットフォームの構築」(以下,「プラットフォームの構築」)と「労務扶貧政策」について取り上げる.</p><p> 研究対象地域は,対外労務合作が最も盛んな地域の一つであり,送り出しの転換を積極的に推進している山東省青島市である.なお,本報告は,労働力送り出しに関わる資料収集,主管行政機関及び外郭団体の担当者へのインタビュー調査,送り出し機関A社社長,送り出し機関B社送り出し業務担当者へのインタビュー調査に基づくものである.</p><p>3.「プラットフォームの構築」と「労務扶貧政策」の概要</p><p> 2010年代初期頃,海外就労に関わる情報の非対称性の解消を目指して,各地で「プラットフォーム」が設立された.これは,海外での就労情報の発信を目的に作られた地方政府や関連団体のHPやSNSを用いたプラットフォームであり,その数は2015年末に310件に達している.</p><p> また,2017年以降,脱貧困政策の一環として,「労務扶貧政策」が展開されてきた.これは,労働力の送り出しによる貧困問題の解決を目指した政策として位置付けられる.具体的な取り組みとしては,貧困地域からの労働者派遣の推奨や,貧困地域に居住する海外就労希望者への仲介手数料や教育訓練費用の補助,送り出し機関の集積地域と貧困地域の連携などが行われている.</p><p>4.青島市の送り出し機関の対応と課題</p><p> 送り出し機関A社は2014年から,山東省内のZ市のプラットフォームの構築に携わり,事務所の設立,職員の派遣,資金投入,就労セミナーの開催などの取り組みを行った.その結果,3年間で約1000人の労働者を海外に派遣した.しかし,Z市においては,海外就労が盛んになるにつれ,違法な仲介業者なども出現した.このように,地域の対外労務合作業界に様々ステークホルダーが出現することになり,その後,A社がZ市のプラットフォームの運営から撤退した.</p><p> また,労務扶貧政策を受け,送り出し機関であるA社・B社は積極的に省外(中西部地域)の関連機関との連携を模索し,労働者の送り出しの促進を試みた.しかし,中国と日本の所得格差の縮小,最貧地域の労働者にとっての経済的負担,対外労務合作に対する地方政府のスタンスが一様でないことなどにより,貧困地域労働者の派遣実績の成果は限定的なものに留まった.</p><p>5.おわりに</p><p> 2010年代以降,送り出し転換期の中国対外労務合作業界では,新たな取り組みが拡大した.しかし,賃金格差の縮小や労働者派遣の困難さ,業界の根本的な改革に至らないことなどを背景に,貧困地域の労働者の海外就労促進や送り出し機関の自立・発展に対する効果は限定的なものに留まっている.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390579078735059328
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_105
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ