グローバル都市におけるグラフィティの学際的研究

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タイトル別名
  • An interdisciplinary study of graffiti in global cities:
  • Focusing on the spatial characteristics of graffiti in Hamburg and Tokyo
  • ―ハンブルク・東京におけるグラフィティの空間的特徴に注目して

抄録

<p>グラフィティは日本国内はもとより,世界では現代アートとしての認知が進み,芸術作品としての多面的価値が評価されるに至っている。しかし,作者の匿名性がある種の前提でもあるこの文化表現の規範にも起因し,誰が,いつ,どのように始めたのかが不明であり,その歴史的正当性そのものに疑問を投げかけるグラフィティの芸術史は,NY(2022年)やハンブルク(2023年)でのミュージアム企画展を一例とし,近年になって新しいパブリックヒストリーとして注目される。 他方で,世界における学術的関心(Ross(2019)等)とは対照的に,国内では学術研究数が限定的であり,また,どういった作品がどのような事物に描かれているのかという実態把握はもとより,声なき作者でもある「ライター」が何を考え,どのような作品をどこにライティングするのか等を定量・定性的に把握した研究は,管見の限り世界的にも限られる。そのため,ライターへのインタビュー調査を一例とする定性的調査に先んじて,どこの(場所),どういった事物に対し(対象),どのようなライティングを行うのか(作品)に関する定量的研究を行うこと,またそれを学際的に行うことが極めて有効である。 以上を踏まえ本研究では,国際的学際研究への展開を視野に,1980年代以降,世界におけるグラフィティシーンを牽引するとともに,ミュージアム企画展を現在開催中であり,かつミュージアムの展示物である文化遺産の現代的意義を追求し続けるドイツ(ハンブルク)と,世界に先駆けて2000年代半ばに美術館にてグラフィティの展覧会を実現した日本(東京)を対象国とし,都市の公共空間に所在するグラフィティの空間的特徴を実証的に明らかにする。 調査の手順は以下の通りである。まず,東京・ハンブルクの各都市において,グラフィティが集中的に集まることで知られる地域(東京は渋谷・原宿・下北沢・高円寺,ハンブルクはSchulterblatt Str., bartels Str. Sternschanz・Altona・St. Pauli)で,研究分担者と共に探索的な空間的特徴に関する定量調査を実施する。なお,定量調査に当たり,計5件のヒアリング調査を行った。本研究においては,それらの知見も一部用いて分析を行う。 グラフィティの空間的特徴を,主に場所(公共・準公共・民間地等)・構造物(電柱・ポール・看板等)・芸術表現(種類・手法・意味等)において概観すると,東京では公共財のほか,私有地(ただし,一般家屋等よりもコンビニエンスストア等,公共空間として認識されている箇所が多い特徴)にも確認されること,そうした場所や構造物を抽出すると,一定の類型化が可能であること,さらに日本ではアメリカの黒人文化やストリート文化の影響が顕著であり(ヒアリング調査に基づく),そのために集団内部において一定の規範が維持されていること,それらが空間的特徴のみならず,ライターの対象とする対象物の選択や,グラフィティのライティング方法(特に,スローアップやタグの非重複)に現れていることが明らかとなった。こうした特徴は,ハンブルクでも同様に確認される。例えば,グラフィティの確認される場所・構造物・芸術表現の類型化が一定程度可能であり,特に構造物に関しては日本と共通することも多い。他方で,東京に比較してグラフィティの絶対数が圧倒的に多いハンブルクでは,グラフィティ・ライターの職種が社会的に許容されている一方,規範は維持されていないか,必ずしも明確に判断できないこと等,両地域では違いが確認された。 グラフィティへの注目の背景には,この文化芸術表現の本質でもある,単一の歴史観に収斂させることが困難な性質や,グローバルに伝播・波及した先のローカル化やローカルヒストリーの重要性があることが発表者らの実施した予備調査で明らかになっている。特に近年,グラフィティ内における表現のせめぎ合い,そして黒人文化(ストリート文化)の一部としての真正性への回帰等も確認されており,公共空間における芸術研究としての研究に終始せず,現代に自発的に継承される文化遺産としての本研究の潜在性と学際的研究としての国際展開可能性は高い。冒頭に述べた1960年代の地理学者の「発見」した「言語景観」は,40年後に言語社会学で注目されることとなり,サウアーの文化的景観は世界遺産に,そしてトゥアンやレルフの「場所の意味」は文化遺産や都市計画によって参照・展開されるに至っている。地理学が,その領域を超え,国際社会にどのように貢献できるのか,今,問われている。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390579078735081856
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_118
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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