中国農業の変化

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タイトル別名
  • Changes of Chinese agriculture
  • A Case study of “Convert Forest into Cultivated Land” in Heqing, Yunnan, China
  • 中国雲南省鶴慶県における「退林還耕」を例にして

抄録

<p>1. はじめに</p><p>中国では毛沢東時代から穀物の生産量を増やすために、多くの森林を開拓し、田畑に変えてきた。しかし、1990年代後半、各地で水害が頻発し、深刻化したため、中国政府は1998年以降、田畑を森林に戻すことや、水涵養力の高い作物への転換を推進してきた(「退耕還林」政策)。 その一方で、中国政府が重要な農作物と指定している4種(米・小麦・トウモロコシ・大豆)の自給率は2010年前後から相次いで100%を割り込み、近年では輸入が大きく拡大している。大豆については、それ以前からほとんど輸入に頼ってきたが、近年の問題はその他3種についても自給率が下がりつづけ、輸入を拡大せざるをえない状況になっていることである。その背景には、都市化により耕作面積が不断に減少しつづけていること、穀物価格が低いことによる農民の耕作放棄・より収入の高い作物への転換がある。 そうした現状において、中国政府は近年、18億畝(1畝≒6.67a)を最低限度ラインとして農地の確保に努めてきた。しかし、天候による多少の収穫変動はあるものの、食糧生産は徐々に減少しており、中国政府は今年から、「退林還耕」と言われる政策を始めた。 そこで本研究は、事例となる村で行われようとしている「退林還耕」の実際の計画から、村住民の意見を紹介しつつ、中国の農業政策に透けて見える意図とその問題点について検討を加える。</p><p>2. 地域概観</p><p>事例となる村は雲南省鶴慶県にある村落であり、450世帯余りで、2000人余りが住んでいる。同村では、川岸に水田が多く広がるほか、山麓を中心に桑畑が多く、養蚕が盛んである。また、トウモロコシや水田の裏作には、ニンニクやソラマメがよく植えられている。1人当たりの耕作面積はおよそ1.2畝であるが、各世帯によって1人当たりの耕作面積は偏在している。</p><p>3. 示された「退林還耕」と村住民の受け止め方</p><p>村住民によると、同村で示された「退林還耕」の内容は、同村の200畝あまりの桑畑をトウモロコシ畑または水田に替えるというものである。その場所を指定したのは地元政府であり、なだらかな段々畑で、揚水ポンプの導水管がすぐ脇に配置されているところである。その金銭的な補償は、転換1年目に6000元/畝の転作費および、転作1年目から5年目までは収入補填として4500元/畝を支払うというものであった。その影響は世帯によって大きく差があり、まったく影響のない世帯から、世帯が「所有」する田畑の3分の1程度も影響を受ける世帯まで様々である。 村住民はこれに対して、将来的な収入減に危惧を持っていた。この背景には近年、穀物から他の作物への転作が厳しくなっていること、および6年目以降の収入が減ることに対するものであった。また、政府の説明では誰かに耕作を委ねることを勧めていたが、これも住民にとって単に農業収入の減少を受け入れるだけにすぎず、否定的な意見が多かった。 養蚕による収入は2022年、桑畑1畝あたり経費を差し引いて、年4000元ほどであった。他方、政府が増産をはかろうとするトウモロコシや米は経費を差し引き、補助金を含んでも、それぞれおよそ1000元/畝(近年、近くの牧場がトウモロコシの葉や茎を買い取ってくれるため、それを上乗せしている。)、300元/畝にすぎず、穀物を栽培しても利益が少ない。また、養蚕自体を行わず、桑の葉だけを売っても、年間数百元/畝の利益を確保できる。 村では養蚕を手広く行う世帯から、桑の葉を売るだけで収入を農外就業にほぼ頼っている世帯まで幅広く存在し、それぞれの世帯で農業が占めるウエイトは大きく異なる。しかし、多くの村住民はあまり遠くに行かない農外就業に従事する傾向が強く、農外就業をしながら、農業も捨てない戦略にある。そのため、村住民は遠い将来まで視野に入れたものの見方をしており、5年にすぎない補償金とそれがなくなってからの再転作の可能性が不透明な現状に不安を覚えていた。</p><p>4. おわりに</p><p>筆者が雲南の村落でフィールドワークを始めてから今日まで、政府の強い統制下にある穀物価格は他の物価上昇に比べて、物価の上昇に乏しく、農業収入は相対的に減っている。そのなかで商品作物の栽培は農業収入の増加が見込めるものであった。中国政府は農業の増産と現代化には力を入れているが、「退林還耕」政策を見ても、穀物価格の抜本的な引き上げには消極的である。「退林還耕」により、一部の農地に時限的な補填をするよりも、穀物価格を抜本的に引き上げる時期に来ているといえるだろう。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390579078735091200
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_48
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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