社会系教科としての選択科目「地理探究」における地誌学習とヨーロッパ理解の課題

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Topography learning and European understanding issues in Advanced Geography (<i>Chiri tankyu</i>) as a social studies subject in High School

抄録

<p>高等学校では2022年度から「地理総合」が必履修となり,今年度からは選択科目「地理探究」が始まった。戦後の高校地理において必修科目の上に選択科目が置かれるのは初めてと言える。</p><p>そのようななかで今回の公開講座の対象となったヨーロッパは,「地理総合」においては,おもに国際理解と国際協力を考えるための事例地域として扱われている。一方「地理探究」では地誌的考察を行い,地域像を形成する対象地域として現れる。しかし,どちらの科目でも教科書の多くは,いずれもEUという地域統合の視点からヨーロッパを捉えている。「地理総合」で事例地域を取り上げるときに,ヨーロッパはほぼ外されないだろうから,「地理探究」の地誌的考察においては,ヨーロッパを扱うにあたって繰り返しEUという地域を扱うことになろう。つまり,EU外のヨーロッパ諸国はいつ,またどのように扱うのかということが課題になると考えられる。それはEU外のヨーロッパ諸国の存在がヨーロッパという地域を地誌的に捉え,地域像を形成するときに重要な側面をもつからだが,ブレグジットを騒ぎ憂いながら,今も昔もEU外であるヨーロッパ諸国に着目しないのはなぜか。そのような着眼点から,生徒は,他の社会系必修科目とともに「地理総合」を学ぶのだということを前提に,それらとの関連にも触れつつ,前述の課題について考えていきたい。</p><p>発表者は,昨年度「歴史総合」,今年度「公共」の授業を担当している。生徒のほとんどが1・2年生のうちに必修3科目を履修するとして,ヨーロッパについてどのような地域像が形成されるか。</p><p>例えば「歴史総合」では近現代のヨーロッパの歴史について学ぶ単元が広く存在する。また「公共」では,伝統・文化の単元においてキリスト教の伝播や和辻哲郎の風土論における牧場型としてのヨーロッパ観が,また功利主義や道徳法則に始まるヨーロッパ思想や,フランス人権宣言,イギリスの政治機構や冷戦体制,EUの政治統合などヨーロッパ社会のしくみを学ぶ単元が多数存在する。しかし,「公共」の授業で,「歴史総合」で学んだヨーロッパの歴史を生かすことは非常に難しいと感じる。</p><p>それはひとつに,「歴史総合」ではヨーロッパ思想にかかわる古代から近世を扱わないこと,もうひとつに生徒たちのもつヨーロッパの地域像が曖昧で他地域との混同があることと考える。今春,「地理探究」を選択した生徒に簡単なアンケートを採った(有効回答26名)際に,ランダムに選んだ国々の地域区分を問うたところ,隣接しているが他地域に属するトルコとモロッコに関して,トルコについては半分弱が,モロッコに関しても1/5がヨーロッパ・ロシア地域に属すると回答した。このことから,「地理探究」で特定の地域を扱う際に,地域の範囲をどのような視点で区切るのか,なぜその範囲で区切るのかということを意識させることが重要だと感じた。また,「歴史総合」や「公共」においても,生徒たちの地域像が希薄であるということを前提に内容を取り扱う必要があるということを感じた。その地域像を育てるのは,本来,必修科目の「地理総合」の役目ではないかと思われるのだが,地域像を形成するのに重要な地誌的考察の単元は「地理探究」に譲られている。そこで本発表では,必修3科目の学習内容を踏まえたうえで,複雑で重層的なヨーロッパの地域像,地誌がどのような形で生徒のなかに形成されていくことが望ましいか,「地理探究」に絞って述べる。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390579078735094912
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_42
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ