赤色立体地図で確認された地形由来の地名
書誌事項
- タイトル別名
-
- Topographical place names confirmed on the “Red Relief Image Map”
- A report on the use of topographical place names in forest boundaries survey
- ~森林境界明確化調査における地名の活用事例の報告~
説明
<p>1.はじめに</p><p> 山村では,森林所有者の高齢化や不在村化に伴い境界不明の森林が増えており,大きな課題となっている.特に京都府内の市町村では地籍調査が遅れており,山村部の境界はほとんど確定できていない.</p><p> 上記の背景から,福知山市では森林境界明確化事業に取り組んでいる.本事業は,公図や森林計画図などをもとに境界合意を進めていくものである.しかし,山の公図は精度が著しく悪い場合も少なからずあり,公図がどこに位置しているかの判断さえも,極めて困難な場合がある.</p><p> ところで近年,航空レーザ測量をもとに赤色立体地図等,地形を立体的に表現する手法も開発(千葉ら,2004)され,地形の形状を直感的に把握することが可能となってきた.その成果を用いて,地形や林相の状況から境界の根拠を整理し,リモートセンシング手法による境界合意の試みが普及しつつあり,当市でも赤色立体地図を活用した調査を行っている.令和4年度の調査で,土地の地形的特徴を表す地名(以下,地形地名と称する)が多く残されており,赤色立体地図で見られる実際の地形と関連性があることに気付きがあり,不明確な公図の位置の推定に繋げることができた.今回,調査地における地形地名の地理的特徴について,把握できた事例を報告する.</p><p>2.対象地域と確認された事例</p><p> 調査は,福知山市大江町の河守地区・河西地区において実施した.本地区では,凡そ1,300haの範囲に332の字を確認した.これらについて,松永(2021)の記述を参考に地形地名を整理した.</p><p> 最も多かった地形地名は,谷地形を表す「谷」「迫」で計75例を確認した.次いで,急傾斜地を含む山地形を表す「山」「坂」等が多く,計46例を確認した.「谷」や「山」は,流域や山塊などの大地形を表す場合が多かった.当地区は,細かな谷が櫛状に入り組んだ地形が多いことに加え,かなり奥まった谷まで田畑が開墾されていたことから,多くの谷に名前がつけられたものと推察された.また,「迫」や「峠」などの微地形は,周辺の地形と比較して特徴がある地形環境で用いられていることが多かった.これらの地形は,耕作地や里道として利用されていた形跡があることが多く,地形と地名の対応が分かりやすいため,境界根拠の説明にあたって,所有者の納得が得られやすかった.</p><p>3.おわりに</p><p> 山林の所有地は,所有者本人がすでに分からない場合も多いため,境界の客観的根拠が重要となる.今回,赤色立体地図で確認した地形地名を,説明資料の一つとすることができた.福知山市では今回得られた知見も活かして,市内の森林界明確化を進めていく計画である.その際,地元精通者への聞き取りを通して,地名の由来を確認しておくことも重要であるといえる.</p><p> 地形地名は,災害履歴など土地の歴史を物語っている場合があり,注目が高まっている.今回得られた知見は,境界調査だけでなく,防災調査や生物調査などの場面でも,さらなる活用が望まれる.</p>
収録刊行物
-
- 日本地理学会発表要旨集
-
日本地理学会発表要旨集 2023a (0), 152-, 2023
公益社団法人 日本地理学会