津軽平野中部における完新世の堆積環境変遷と地形変化

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  • Geomorphic Evolution of the Coastal Lowlands and Sedimentary Environment Changes in the Tsugaru Plain, Aomori Prefecture, Northeast Japan

抄録

<p>1.研究目的</p><p> 東日本の日本海側に広がる津軽平野の完新世における地形発達については,氷河性海面変動との関連性を軸に,幾つかの研究によって明らかにされてきた.一方,津軽平野を構成する沖積層には,岩木川水系によって上流域からもたらされた火山噴出物が混在することが指摘されており,それらによって生じた堆積環境の変化が完新世のダイナミックな地形発達に影響を与えた可能性がある.</p><p> 本研究では,津軽平野中部で実施した地質ボーリングによって得られたコア試料(DSコア)を対象として各種分析を行い,DSコアに含まれる火山灰噴出物の混入状況の垂直的・時代的変化を明らかにするとともに,それが津軽平野の地形発達にどのような影響を及ぼしたのかを考察する.</p><p>2.調査方法</p><p> 地質ボーリングは,津軽平野中部(青森県北津軽郡鶴田町大性),岩木川右岸の自然堤防(蛇行帯)において実施した.当地は沖積上位面に位置し,地表面の標高は13.6m,緯度と経度はそれぞれ,北緯40度43分26.5秒,東経140度25分23.8秒である.ボーリングの掘削長は14.9mである.得られたDSコアについては,層相・層序の記載を行った後,有機物試料を採取して,そのうちの8点について加速器質量分析(AMS)法による測定を実施し,放射性炭素年代値を得た.加えて,5つの層準(下位から順に,標高0.0~0.1m,標高4.8~4.9m,標高7.5~7.6m,標高10.3~10.4 m,標高11.0~11.1m)より堆積物試料を採取し,粒度組成・全鉱物組成・火山ガラスの形状・火山ガラス屈折率の分析を行った.そのうちの125-250μmの粒子については,波長分散型X線マイクロアナライザー(WDS)により,火山ガラス粒子の化学組成の分析を行った.</p><p>3.結果および考察</p><p> DSコアは標高7.5 mを境に下部と上部で構成堆積物が概して異なり,下部は砂が卓越するのに対し,上部はおもに泥から成る.コア下部について詳しく観察すると,標高-1.1~-0.8mおよび標高3.5~3.8mに炭化物や木片を含む泥層が認められる.その2枚の泥層の間には細粒砂と中粒砂の互層が認められる.また,標高1.5mに軽石や木片を含む極粗粒砂が狭在する.一方,標高7.5mよりも上部では泥層が主であるが,層厚0.1~0.2mの極細粒砂層や細粒砂層も認められる.標高8.8~9.9mと標高11.3~13.3mでは泥層が卓越し,前者には未分解の有機物,炭化物,植物遺体が多く含まれる.標高7.5 m以下からは4点の炭化物もしくは木片が採取され,下位から順に8,000~7,920cal BP(標高-1.0m),8,170~8,020cal BP(標高1.5m),6,660~6,500cal BP(標高3.8m),6,570~6,410cal BP(標高6.5m)の値が得られた.一方,標高7.5 m以上からは4点の木片が採取され,2,040~1,950cal BP(標高8.9m),2,010~1,990cal BP(標高9.3 m),2,040~1,960cal BP(標高9.6m),1,930~1,820cal BP(標高10.2m)の値が得られた.</p><p> DSコアから採取した各試料中に含まれる火山ガラスの割合はいずれも15%以下であり,火山ガラスの屈折率のレンジはn=1.497~1.515で,n=1.500~1.510に分布が集中する.この結果と火山ガラスの化学組成からは,完新世を通じて,常に複数起源の火山噴出物が包含される堆積物の供給される状況にあったことが分かった.その火山噴出物とは,鮮新世から前期更新世にかけて形成された湯ノ沢カルデラ起源の尾開山凝灰岩や,更新世後期以降の十和田火山の噴火によって生じたもの(To-Of,To-H,To-Cu,To-a)であり,岩木川水系によって上流部からもたらされた.DSコアの分析結果は,後背地からの火山噴出物の流入の時期や量が津軽平野の地形発達のあり方に影響している可能性を示唆する.とりわけ,津軽平野の地形を特徴づける完新世段丘や氾濫原の蛇行帯の形成にあたっては,上記の可能性を視野に解明されるべきだと考える.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390579078735108224
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_47
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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