ICTツールを活用した地理教材共有化のための全国的組織の形成と発展

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Formation and Development of a Nationwide Group for sharing Geography teaching materials using ICT tools

抄録

<p>1. はじめに/研究目的・方法</p><p>  平成30年版学習指導要領の改訂により高等学校の地理歴史科で「地理総合」が2単位の必履修科目となり,2022年度より全国の高等学校で「地理総合」の授業が開講されている。「地理総合」の指導には教員自身の地理学に関する専門的な知識の理解と技能が必要である。しかし,各学校の教員配置によっては地理を専門としない教員が「地理総合」を教えなくてはならない状況が従前より指摘されている。このことに関しては,学会や地理関係機関による様々な支援が行われてきた。その中でも,日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会(2017)の提言により地理学連携機構の下に設立された地理教育フォーラムが2022年に実施した「地理総合オンラインセミナー」に30の教材提供とその解説を行った「地理教材共有化の会」(以下,共有化の会と呼ぶ)の活動は特筆に値する。この会は,既存の人間関係を基盤としながらも,SNSを通じて会員を集め,全国的な組織を築いている。共有化の会の組織形成と活動内容はICTツールを活用して距離を越えた教材開発を自立的に行う組織として,地理教育の普及・発展に寄与するものであると考える。  本研究では,共有化の会のメンバーが所属するFacebookプライベートグループの「ICTでシェアする地理教材研究会」に登録された公開されている会員の居住地や参加日等のデータから,参加者の広がりを時系列的に把握した。また,会の中心的メンバーであるコアメンバー13人への聞き取り調査の結果をもとに,会の発展の経緯と要因の分析を行った。コアメンバーとは,会の運営の基盤を担う者としてFacebookグループの設立から約1年後に立候補制で募集された役割の名称である。</p><p>2.結果・考察</p><p>  Facebookグループの会員データを,すでにグループに参加しているメンバーが知り合いを招待する方法(招待参加型)と,自ら検索を行うなどしてグループを見つけ,参加申請を行って自発的に参加する方法(自発参加型)に分けた。グループが設立された2020年4月12日から2023年6月30日までの招待参加型と自発参加型の割合の変化を時系列でみた。その結果,設立から約3週間までの初期においては招待参加型の割合が5割を超えていたが,徐々に自発参加型の割合が増えて約3割に低下した。グループメンバーの空間的な広がりは,関東地方に居住あるいは勤務する者の数が他地域に比べて多かった。コアメンバーの参加時期はグループ設立1週間以内が9人であり,その後は2021年2月7日までに他のコアメンバーが参加し,2023年6月30日現在の13名となった。コアメンバーも含めたグループメンバーには,割合は低いものの既存の人間関係によらない参加も見られることがSNSを活用した会員募集の成果であると考えられる。</p><p> 2022年8月に実施したコアメンバーへの聞き取り調査からは,教材開発を自立的に行う共有化の会について,一人称で語る発言が多くみられた。これは,異なる地域に住むメンバーで構成される共有化の会での意見交換がコアメンバー自身にとっての満足感を高めることにつながっていることを示している。また,SNSを介して募集された組織であっても,既存の人間関係による繋がりは特にコアメンバーを引き受ける際には重要な要素であった。</p><p> 2022年5月の教育職員免許法改正により,教員免許更新制が発展的に解消されたことから,教員研修の在り方も変化しており,中央教育審議会(2022)答申では教職生涯を通じて学び続ける教師像が明確に打ち出されている。この新しい教師像の理想を追求する場として,共有化の会の活動とそこでコアメンバーが感じている自己研鑽の場としての共有化の会に対する思いは,今後の教員研修の在り方としての示唆に富んでいる。</p><p></p><p>引用文献 中央教育審議会(2022):『令和の日本型教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~「新たな教師の学びの姿」の実現と,多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~(答申). 日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会(2017):持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実(提言).</p><p>https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/ kohyo-23-t247-6.pdf(2023/6/11閲覧)</p><p>[参考サイト] 地理教材共有サイト https://sites.google.com/view/geoclass2020/%E5%85%A5%E3%82%8A%E5%8F%A3?authuser=0(2023/7/12閲覧)</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390579078735112960
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_91
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ