クモを闘わせる遊びの伝播と変遷について -東京湾周辺地域における“ネコハエトリクモ合戦”の事例から-

書誌事項

タイトル別名
  • The Spread and Transformation of the Recreational Activity of Spider-Fighting -A Case Study of Battling Carrhotus Xanthogramma in the Tokyo Bay Area-
  • クモ オ タタカワセル アソビ ノ デンパ ト ヘンセン ニ ツイテ : トウキョウワン シュウヘン チイキ ニ オケル"ネコハエトリクモ ガッセン"ノ ジレイ カラ

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抄録

クモを闘わせる遊びの文化(本稿では「クモ合戦」と記述)は、日本列島の太平洋側沿岸部を中心に広い範囲に分布していたことが川名・斎藤による先行研究で明らかにされている(川名・斎藤1985)。本稿ではその中でも、東京湾周辺地域に多く分布しているネコハエトリ(Carrhotus xanthogramma)のオスを用いるクモ合戦について、筆者による実地調査で採集した事例を用いて整理・考察を行った。東京湾周辺地域におけるネコハエトリクモ合戦は先行研究(川名1992)で指摘されているように、狭い地域の中でも用いられる語彙や知識が多様に変化する。本稿ではそうした文化の伝播と変遷がどのようにして現在に至るまで続いてきたのかを明らかにするため、次の二つの章に内容を分けて整理した。 一つ目は千葉県富津市で毎年5 月4 日に開催されている大会「日本三大くも合戦 横綱決定戦」について、現在も直接見ることのできるクモ合戦の事例を整理する章である。ここでは、大会参加者が大会当日までのクモの採集・育成にて用いている知識と、大会の試合にて観戦者を含めた人々がクモを見る際に用いている知識は必ずしも同じではないことを論じた。 二つ目は上記のような大会以外の場で行われてきたクモ合戦について明らかにするため、筆者が神奈川県横浜市、千葉県鴨川市、九十九里町、館山市にて調査した事例を整理する章である。ここでは事例を(1)クモ合戦のルール、(2)クモ合戦を行っていた人々、(3)クモの飼育容器、の三つに分けた。その結果、学校を舞台とした子どもたちによるクモ合戦文化の伝播と伝承についてまとめたほか、先行研究が報告していたように漁師などの大人によっても以前からクモ合戦が行われていたことを確認した。 以上を踏まえ、本稿では東京湾周辺地域におけるクモ合戦文化について、(1)川名・齋藤が論じた地理的な要因による伝播以外にも、学区割りや戦中・戦後の移住などといった要素を考慮する必要があること、(2)大会という行事が生まれたことが、現在におけるクモ合戦文化の伝承に影響力を持っていること、の2点を指摘したい。

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