作曲過程における楽器生成の可能性 --《ニーベルングの指環》の〈バストロンペーテ〉--

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  • 秋山 良都
    日本学術振興会特別研究員 国際競争力強化研究員CPD; 京都大学; ゲッティンゲン大学

書誌事項

タイトル別名
  • Possibility of the instrumental genesis in the compositional process: The case of ‘Basstrompete' in Der Ring des Nibelungen
  • サッキョク カテイ ニ オケル ガッキ セイセイ ノ カノウセイ : 《 ニーベルング ノ ユビワ 》 ノ 〈 バストロンペーテ 〉

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抄録

R. ワーグナーは,《ニーベルングの指環》の楽器法において,同時代の管弦楽編成においても軍楽隊編成においても,非慣習的な金管楽器の導入を試みた。四部作全体の音響テクスチュアにおいて,〈バストロンペーテ Basstrompete〉は,ドラマトゥルギー上の根幹となっている。19世紀に発明された中低音金管楽器の一つとしてのバストランペットは,音楽学・楽器学において,専ら《指環》との関係において説明されてきた。ところが,その用語法と形態は,同時代の実践においても,研究においても錯雑としている。19世紀におけるヨーロッパ近代金管楽器研究の概念史的問題は,新形態楽器の開発・応用において,形態論的・意味論的認識が溶解したことにある。とりわけ,ヴァルヴ式金管楽器の「バス」の発明と応用は,金管楽器の類型と文化的意味の(再) 定義を問題化する要因となっていた。ワーグナーは,《指環》の作曲=作劇過程において,この問題を把握し,〈バストロンペーテ〉声部を,金管楽器群の声部拡充とコンソート的な標準化に馴致させるのではなく,どの楽器群にも完全に所属し得ない,不確定な音響として実験した。それはまた,軍楽隊のための楽器製造・演奏慣習からも異型の声部であった。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 121 5-31, 2023-06-20

    京都大學人文科學研究所

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