二〇世紀初頭ライタ川以西における「非弁護士」試論 ―オーストリア司法省文書を手がかりとして

書誌事項

タイトル別名
  • Eine Studie ”Winkelschreiber“ in Cisleithanien im Anfang des 20. Jahrhunderts : Anhand der Akten über ”Agentenwesen Winkelschreiber“ des k.k. Justizministeriums

抄録

<p> 本稿の目的は、二〇世紀初頭オーストリア=ハンガリー二重君主国のうち、通称「オーストリア側」「ライタ川以西」と呼ばれる地域における「非弁護士」の法的サービス活動を、オーストリア帝国司法省文書の検討を通して、明らかにすることにある。</p><p> 非弁護士とは、今日では資格なくして取引に関する書類、当事者を代理し、法律に関する情報を提供する者を意味し、そのような行為は裁判所や行政庁によって厳しく罰せられる。オーストリアでは、一九世紀に弁護士や公証人制度の近代化が進む過程で、暫定的な資格として、一八三三年司法局令により「公的代理業」制度が設置され、「法の定めにより、別に留保されていないすべての行為」を代行し、事務および情報提供のための事務所を開設することが認められていた。しかし、非弁護士取締に関する司法省令(一八五七年)、弁護士法(一八六八年)、公証人法(一八七一年)の成立、弁護士や公証人数の増加の後もなお、公的代理業の申請は君主国解体まで後を絶たなかった。</p><p> 中央官庁への抗告案件に関わる司法省公文書の分析から、以下の二点が確認できた。第一に、申請者の経歴については、法学の中途退学者から宿屋経営者にいたるまで様々ながら、とりわけ退役軍人と退職官吏が多かった。申請者の多くは、たちの悪い「もぐり」弁護士というより、むしろ「地域の需要」に即しているように認められた。次に、官公庁の方針として、弁護士と公証人の職域確保を最優先課題とする。ただし、これらの職域を侵害しない限りにおいて、「地域の需要」を考慮して、申請を認める用意もあった。その好例として、第一次世界大戦に近接した時期と地域という背景事情からか、軍関係案件については「情報提供」業務に限って認可される事例が複数認められた。</p><p> 結論として、非弁護士の存在は、ライタ川以西の地域に必要であったと確認できる。</p>

収録刊行物

  • 法制史研究

    法制史研究 67 (0), 161-199,en9, 2018-03-30

    法制史学会

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