特集:「イノベーション創出における人材育成」の編集にあたって

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タイトル別名
  • Introduction to “Developing Talent for Innovation Creation”

抄録

<p>近年,日本のイノベーション創出の落ち込みが指摘されている。一方で,大学における研究者の研究時間の確保や学術論文数の減少,博士人材の不足といった課題も表面化して久しい。</p><p>20世紀にシュンペーターが提唱したイノベーション理論は,新たな価値を社会にもたらすものであるとよく説明される。しかしながら,その言葉の範疇を正しく理解することは容易ではなく,ましてやそれを一様に測ることにも様々な障壁がある。だが,それを成しえるのは「人」であり,その大きな源泉を,博士人材やその育成の場である大学院に見出すことは,イノベーションの創出を考える上での一つの方法であるだろう。</p><p>本特集では,イノベーションを生み出す人材として博士人材に注目し,そのキャリアパスや育成環境について考えることを目指した。同時に,博士人材を育成・輩出する場である大学において,従来とは異なる形で研究や教育を支援する人材についても見渡すことを試みた。</p><p>まず,鈴木潤氏(政策研究大学院大学)には,日本のイノベーション・システムが停滞している現状を豊富なデータと共に解説いただき,その背景にある社会構造や大学における研究環境の変化を活写いただいた。続いて長根(齋藤)裕美氏(千葉大学)には,博士人材育成機関としての日本の大学院に焦点を絞り,制度的な問題点を指摘するにとどまらず,博士人材の活用の可能性を示していただいた。これに加えて,川村真理氏(科学技術・学術政策研究所)には,博士人材追跡調査等の結果を通して,博士人材のキャリア形成の問題を掘り下げ,分野に応じた支援の必要性を提示していただいた。以上三つの論考により,日本のイノベーション・システムと大学院や博士人材についての理解を深めることができる。</p><p>さらに,伊藤健雄氏(京都大学)には,大学における比較的新たな職種であるURA(リサーチ・アドミニストレーター)が,それぞれ独自の専門知識や経験を活かして大学経営や研究推進に携わることで,イノベーション創出に寄与することを事例と共に解説していただいた。また,木村弘志氏(一橋大学/東京大学)には,大学経営人材の育成という視座から,事務職員出身者と教育職員出身者の具体的な業務や必要とされる能力・資質を整理し,その課題や可能性を示していただいた。これら二つの論考は,大学における支援業務の最新の様相を理解する手助けになるだろう。</p><p>本特集では,イノベーションの創出という大きな課題のごく一部しか照射できていないかもしれないが,博士人材をめぐる現状についての理解を深めること,その支援者の在り方について視野を広げることで,読者が自らの展望を描く一つのよすがになれば幸いである。最後に,特集の意図を最大限に汲みつつも,新たな視点を与えてくださった執筆者の皆さまに,深く御礼申し上げます。</p><p>(会誌編集担当委員:尾城友視(主査),青野正太,池田貴儀,水野澄子)</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390580143069133184
  • DOI
    10.18919/jkg.74.1_1
  • ISSN
    21898278
    09133801
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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