洪水予測情報の長時間化が浸水想定区域内の居住選好に及ぼす影響

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Impact of Extended Flood Forecasting Information on Residential Preferences in Flood Inundation Risk Areas

抄録

<p>近年,日本では大規模な水災害が増加し,災害リスク軽減と防災力向上が求められている.その一つとして水災害に対してのリードタイムを長時間化するための研究が進められており,現在では最大30時間以上先までの洪水予測が可能になりつつある.このような長時間先までの予測情報は単に洪水前の避難行動や水防活動をサポートするだけでなく,長期的な土地利用変化をもたらす市民の居住選好にも影響を与える可能性がある.本研究では,洪水予測情報の長時間化が浸水想定区域内の居住選好に与える影響の定量化を試みた.具体的には,長野市の住民約1,000人を対象にコンジョイント分析を組み込んだ表明選好型のオンラインアンケート調査を実施し,洪水リスクや洪水予測情報に対する価値観,他の居住環境要素とのトレードオフ,社会経済的属性による重みの違いを分析した.また,対象地域内の居住環境要素を250mメッシュで計測し,それぞれの価値観をかけ合わせることで居住環境に関連するQOL値を空間的に把握したうえで,長時間洪水予測情報実装時のQOL向上効果を試算した. その結果,ライフステージや被災経験等により,居住環境に対する価値観が異なることが明らかになった.高齢者や高所得者,浸水想定区域内の居住者,被災経験者,備えのある人ほど洪水リスクに対する重みが大きい傾向があり,例えば1.5メートルの床上浸水リスクの回避に対する支払意思額は,0.7-3.0万円/月と推定された.また,リードタイムの長時間化が浸水想定区域への居住選好を高める傾向があること,属性によって価値づけが異なることがわかった.女性や高齢者,備えのある人はリードタイムに対する重みが小さい一方,単身者や高所得者,被災経験者はより大きな価値を見出す傾向がある.1.5メートルの浸水想定と等価となるリードタイムは20.3-79.4時間と推定された.よって,精度の高い長時間洪水予測が得られる場合,浸水想定区域であっても他の生活環境要素が良好であれば,市内の空間的QOLランクが上位に遷移する可能性が確認された. これらの結果は,長時間洪水予測情報が防災性の向上だけでなく,人口移動にも影響を与える可能性を示している.一方で,人口減少社会において災害と「ともに暮らす」ことの文化的,社会的,地域的価値については引き続き議論を深めていくことが求められる.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390580143069177344
  • DOI
    10.11520/jshwr.36.0_198
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ