吐き気・嘔吐:つわりから抗がん剤の副作用まで

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  • 楳村 敦詩
    京都府立医科大学大学院医学研究科病態分子薬理学 教授

抄録

<p>嘔吐とは消化管の内容物を、食道・口腔を通じて反射的に排出する現象である。吐き気、すなわち嘔気・悪心は内容物を吐き出したいという切迫した感覚・不快感を指す。その原因は感染性胃腸炎、食中毒や消化性潰瘍、腸閉塞、胆石症などの消化器疾患や腹部の術後以外にも多岐にわたる。つわりは、妊娠初期に高頻度に生じ自然軽快することが多いが、悪化した場合は妊娠悪阻として治療が必要となる。緑内障やメニエール病、片頭痛といった高頻度の疾患のみならず、脳血管障害や頭蓋内出血・脳腫瘍、髄膜炎・脳炎など重篤な疾患にも見られる症状である。心筋梗塞や大動脈瘤・大動脈解離の患者は、胸痛・冷汗や背部痛などの典型的症状のみならず、嘔気・嘔吐が受診理由となる事がある。ケトアシドーシス、電解質異常など全身性の代謝・内分泌異常も嘔気・嘔吐の原因となる。</p><p>薬剤・中毒による嘔気・嘔吐の誘発にも注意が必要である。特にがん薬物療法による悪心・嘔吐は、非常に頻度が高いため、がん薬物療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)として、きめ細かな対応ができるよう分類されている。抗がん薬の催吐性リスクに応じて、セロトニン受容体拮抗薬、ニューロキニン1受容体拮抗薬、ステロイドを主体に予防投与される。オンダンセトロンなど制吐薬の投与は、高頻度に発症する術後悪心・嘔吐(PONV)の対応に重要となる。また、がん疼痛を含めた慢性疼痛の治療では、オピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)への対応が必要である。</p><p>嘔吐はヒスタミン、ムスカリン、ドパミン、セロトニン、ニューロキニンといった神経伝達物質の受容体を介して、最終的に延髄の嘔吐中枢に刺激が伝わることにより生じる。嘔吐中枢への刺激の入力経路として、第4脳室底に存在する化学受容器引金帯(CTZ)、大脳皮質、自律神経、前庭神経などが知られている。それゆえ、心理的・感情的要因や精神的ストレスにより嘔吐が誘発されたり、めまいを伴うことがある。</p><p>吐き気・嘔吐は、大人から子供まで日常的によく経験する身近な症状である。本講演では、現在考えられているメカニズムを含め、吐き気・嘔吐について概説したい。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390580162395841536
  • DOI
    10.34597/npc.2023.2.0_es-2
  • ISSN
    24358460
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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