新規ナトリウムチャネル阻害薬(ANP-230)の研究開発の加速を目指したバイオベンチャーの設立

書誌事項

タイトル別名
  • Establishment of a bio-venture to accelerate research and development of ANP-230, a novel sodium channel blocker

抄録

<p>人類にとって痛みは警告信号の一つであり、生命を維持するための生体防御機構として重要な役割を果たしている。一方、ケガやウイルス感染、糖尿病などの疾患が原因となって生じる慢性的な痛みは、人々のADLやQOLを著しく低下させ、現在でも多くの患者が慢性的な痛みに悩まされている。慢性疼痛に用いられる治療薬としてはNSAIDs、抗てんかん薬、抗うつ薬、オピオイド鎮痛薬などがあり、一定の効果が認められているものの、これら既存薬に対する治療満足度は十分ではない。特に神経障害性疼痛に対する治療薬は少なく、臨床現場では効果的な治療法の確立や新薬の登場が期待されている。創薬標的の一つとして、電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)が挙げられる。VGSCは痛みの神経伝達や神経細胞の興奮性に深く関与しており、これまでに9種類(Nav1.1~Nav1.9)が報告されている。その中で、末梢神経細胞や後根神経節(DRG)に発現するNav1.7、Nav1.8及びNav1.9は、各種疼痛疾患との関連性が報告されており、神経障害性疼痛治療薬の標的分子として注目を集めている。</p><p>AlphaNavi Pharma株式会社(アルファナビ)は、住友ファーマ株式会社で疼痛領域の創薬を行ってきた研究開発者によって設立されたカーブアウトベンチャーである。アルファナビは、住友ファーマが開発してきた神経障害性疼痛治療薬(ANP-230)に関するライセンス契約を締結し、2019年より研究開発を推進している。ANP-230は、Nav1.7、Nav1.8及びNav1.9を選択的に阻害する新薬候補であり、すでに米国、EU、日本でそれぞれ第I相試験を完了している。現在は国内において小児四肢疼痛発作症患者を対象としたANP-230の第I/Ⅱ相試験を実施している。小児四肢疼痛発作症は、2016年に京都大学と秋田大学のグループによって報告された家族性の希少疾患である。小児四肢疼痛発作症は四肢や手足の関節に疼痛発作を起こすが、それ以外に異常所見は観察されず、主に寒冷や悪天候、ストレス、疲労等で誘発されるのが特徴である。</p><p>ANP-230は既存薬で懸念されている中枢性や循環器系への副作用がなく、ラット神経障害性疼痛モデルである脊髄神経結紮モデルや糖尿病性神経障害性疼痛モデル等に対して優れた鎮痛効果を示す。さらにANP-230は、患者に認められたNav1.9をコードする遺伝子変異(p.R222S)を導入したモデルマウスで観察される冷刺激や熱刺激、機械刺激による疼痛行動のいずれに対しても優れた抑制効果(鎮痛効果)を示し、神経細胞の過剰興奮を強力に抑制することが明らかになった。以上のことから、ANP-230は小児四肢疼痛発作症をはじめとする神経障害性疼痛を広くカバーする新規治療薬になると期待されている。本会では、カーブアウトベンチャー設立の経緯やANP-230に関する薬理プロファイルにフォーカスし、産業化を目指したこれまでの取り組みについて紹介する。</p>

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