心血管領域における臨床試験:実行可能性と患者負担
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- 志賀 剛
- 東京慈恵会医科大学臨床薬理学
抄録
<p>心血管領域の治療の発展に、精度が高く信頼性の高い臨床試験が大きく貢献してきたことは事実である。1981年にカナダ、McMaster大学の臨床疫学のグループから起こったEvidence-Based Medicine(EBM)の考えは、1990年代以降の心血管領域における薬物治療や非薬物治療の臨床開発・臨床試験に大きなインパクトを与え、変革をもたらした。その結果、EBMに基づいた診療ガイドラインの策定、医療の標準化が進み、心血管疾患患者の予後改善に繋がった。ただ、心血管疾患の多くは多因子疾患であり、かつその臨床転帰には多くの交絡因子があることは周知のごとくである。このため、医薬品等の真の治療効果を評価しようとすると試験対象はどのような患者に絞るか(たとえ同一疾患であっても重症度や合併症によって集団が異なってくる)、サンプルサイズの算定、臨床転帰や評価指標の選択、様々なモダリティを用いた評価など臨床試験の精度を上げるために多くの努力が払われる。これらを勘案して、対象疾患の治療実績や患者数、施設の設備、試験実施体制などから実施施設が選定される。しかし、日本では中小の循環器専門施設が全国に多数分散しており、特定の心血管疾患患者を一定の施設に集約できないため、多施設共同治験・臨床試験の実施には多くの参加施設が必要となる。これは臨床試験全体の進行や効率化の妨げになる。また、臨床試験の信頼性や質を担保するために品質管理が必要であり、臨床研究支援者の役割にも専門性が求められてきている。一方、検査やフォローのために試験実施施設への受診が必要となる被験者の負担も無視できない。試験参加には前向きであっても頻回の受診スケジュールのために、仕事や家庭を抱えている患者や遠方に居住している患者がエントリーを断念することも多く経験する。</p><p>心血管領域の臨床試験はこの30年間に大きく進歩し、循環器診療の向上と標準化に貢献してきた。臨床試験に精度と品質を維持しながら効率化とスピードを求められている現在、これら実行可能性と患者負担の問題をどう克服していくが課題になるだろう。</p>
収録刊行物
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- 日本臨床薬理学会学術総会抄録集
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日本臨床薬理学会学術総会抄録集 44 (0), 1-C-S10-1-, 2023
一般社団法人 日本臨床薬理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390580217716004992
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- ISSN
- 24365580
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可