製薬企業における臨床薬理の役割―エミシズマブの後天性血友病Aへの適応拡大の例―

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抄録

<p>【目的】エミシズマブ(以降,本薬)は,活性型血液凝固第VIII因子の補因子機能を代替する二重特異性抗体である。本薬の開発は,先天性血友病A(CHA)を適応対象疾患として始まり,その承認取得に至るまでの経緯と臨床薬理の貢献については,別報1)の通りである。本演題では,近年本邦で実施された後天性血友病A(AHA)への適応拡大(以降,本適応拡大)における臨床薬理の貢献について,既公表情報に基づき総説的に報告する。</p><p>【方法】AHA患者を対象に本邦で実施された第III相臨床試験(AGEHA)を含む本適応拡大に関する既公表情報を調査した。臨床薬理の貢献の定義は,薬物動態,薬力学又は免疫原性に関する事項の内,本適応拡大の立案・実施において固有の役割を担ったと考えられる事項とした。</p><p>【結果・考察】臨床薬理の主要な貢献として,[1]AHA患者における本薬の至適用法・用量の設定(計量薬理学的手法の活用)及び[2]AHA患者において本薬の投与を適切な時期に終了するための判断に用いられるバイオマーカーの測定系の構築(生体試料分析の活用)が挙げられた。いずれの事項も,血液凝固第VIII因子(FVIII)活性欠乏の原因が遺伝性であるCHAと自己免疫性であるAHAとの病態特性,治療体系,臨床経過等の違いに関連したものであった。[1]では,AHA患者では免疫抑制療法(IST)の奏効により本薬の投与が必要とされる期間が短く,出血症状も重症であることから,CHA患者で検証された本薬の出血抑制効果がAHA患者で迅速に得られるように,母集団薬物動態シミュレーションを基にCHA患者用の既承認用法・用量をAHA患者用に改変した。AGEHA試験にてその適切性が確認されたことから,同用法・用量にて承認取得へと至った。[2]では,ISTの奏効により回復するFVIII活性を適切にモニタリングできるように,本薬による干渉を受けずに測定可能な系を構築し,AGEHA試験で実装した。当該測定系は実臨床下でも利用可能なように,市販後の測定体制も構築されている。</p><p>【結論】本適応拡大において,臨床薬理は計量薬理学的手法及び生体試料分析の活用を通じて重要な役割を担っていた。医薬品開発において臨床薬理が取り組むべき課題は,開発対象薬物,適応対象疾患又は開発相により異なるため,製薬企業の担当者には各々の役割と専門性に基づき,その的確な見極めと適切な対応が求められる。</p><p>【参考文献】</p><p>1) Successful Drug Discovery 2021;5:221-48.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390580217716084352
  • DOI
    10.50993/jsptsuppl.44.0_1-c-p-f3
  • ISSN
    24365580
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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