肺内薬物動態試験の新展開

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  • 古家 英寿
    医療法人平心会 大阪治験病院 大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部

抄録

<p>ほとんどの市販薬の添付文書には、血中薬物濃度のグラフが掲載されている。一般に血中薬物濃度が高いと組織に分布する薬物の量が多くなるため、血中薬物濃度がわかれば各組織の薬物濃度が十分推定できるためである。</p><p>血中濃度では組織への分布の推定が困難な例としては、脳などの中枢神経に働く薬剤がある。血液から脳に薬剤が達するためには、有害物質などから脳組織を保護する脳血液関門を通過しなければならない。脳血液関門は、分子量が小さく、脂溶性の高い薬ほどを通過しやすいことがしられている。</p><p>ヒトの肺には、肺胞と毛細血管の間に空気血液関門がある。そこでは毛細血管中の二酸化炭素が肺胞に移行し、肺胞中の酸素が毛細血管に移行する呼吸が行われている。肺で働く薬物の分布にも、この空気血液関門が影響している。</p><p>例えば肺炎治療薬は、内服や注射により血液中に吸収されたのちに、空気血液関門を通過して肺に到達する。これまで様々な抗菌薬で肺内薬物動態試験が実施され、血中の薬物が、肺内にどのくらい移行するか報告されている。ほとんどの抗菌薬は、血中よりも肺胞上皮被覆液や肺胞マクロファージのほうがかなり高濃度である。これは、何らかの能動輸送がおこっていることを示唆するが、明確な機序の報告はまれである。</p><p>吸入薬は、口から吸入して気管支を経由して肺胞に至る。肺胞に到達した薬物の一部は、空気血液関門を通って血中に移行する。肺胞への到達と貯留は、血中薬物濃度から推定することは難しいため、吸入薬では肺内薬物動態試験が実施される。</p><p>肺内薬物動態試験は、主に気管支肺胞洗浄法で行われる。具体的には、右肺の中葉のB4かB5という枝が2~3回枝分かれしたところで、気管支鏡の先端を枝の内部に押し付ける。そこで生理食塩水を50mL 注入して回収することを4回繰り返す。回収したBALF液は遠心分離する。上澄みの尿素濃度を、血中の尿素濃度と比較することで、生理食塩水による希釈率が計算できる。そして上澄みの薬物濃度を測定して希釈率で除すると肺胞上皮被覆液の薬物濃度が計算できる。肺胞マクロファージに関しては採取した細胞数をカウントし、肺胞マクロファージの平均体積をかけることで、肺胞マクロファージ全体の体積が計算できる。その肺胞マクロファージをホモジネートして1mLの溶媒に懸濁して薬物量を測定すると、肺胞マクロファージ中の薬物濃度が計算できる。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390580217716120832
  • DOI
    10.50993/jsptsuppl.44.0_2-c-s17-1
  • ISSN
    24365580
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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