パンデミックとその後の世界経済状況、ヨーロッパの新治験申請制度の影響による欧米及び日本でのFIH試験の現状 ― 治験依頼者の視点から

DOI
  • 中野 真子
    ノバルティスファーマ株式会社グローバル医薬品開発本部

Abstract

<p>国際的戦略のあるFirst-in-Human (FIH)試験の実施国選びに、パンデミックとその後の世界経済状況、ヨーロッパの新治験登録制度などが影響をしている。海外で実施する日本人を含めたFIH試験や日本人のPhase 1試験については、COVID-19のパンデミックや円安などの影響で海外在住の日本人が減ったこともあり、パンデミック以前に比べて海外での日本人健康被験者の登録が難しくなっている。また、ヨーロッパの治験申請制度が変わり、この制度を避けて早期臨床試験がイギリスに集中している。このため、イギリスでの治験の審査が遅延し、2023年中旬に提出した試験では6か月(通常の3倍以上)かかると言われた例も出てきている。イギリスを含むヨーロッパで早期臨床試験をするメリットが減ったため、他の国に目が向いている。その代表はアメリカだが、日本もFIH試験を実施する国として候補に挙がりやすくなった。</p><p>日本には早期臨床開発に適した治験実施施設・基盤があるにもかかわらず、欧米の開発研究者から認識されておらず、十分に活用できていない。FIH試験は初めてヒトに投与を実施するので、リスクが高い試験であり、適切な施設選びと十分な安全性対策が重要である。TGN1412・レンヌ事件では、臨床薬理専門家としても学ぶことが多く、施設の対応や規制当局の対応にも注目した。TGN1412事件の経験から学び、Sentinel dosingのデザインや初回用量設定のMABEL法が世界的に広まり、日本ではE2082のFIH試験で死亡例が出たが、適切に調査や対応が行われた。日本でFIH試験を実施することに対する欧米の開発研究者の懸念については、丁寧に説明をし、日本の実施施設に対する信用を得るのが重要である。</p><p>ノバルティスでは、2020年にアメリカの施設で開始したFIH試験で日本の施設を追加することにより、抗がん剤以外でも日本でのFIH試験実施の実績ができ、試験実施の質のよさも海外の開発研究者に感じてもらえた。その後、別のプロジェクトで日本単独でのFIH試験実施を決定し、年内の試験開始に向けて準備をしている。海外の物価の上昇と円安による影響は予想以上に大きく、欧米での治験実施費用は大きく上昇している一方で、日本の治験実施費用はドルに換算すると比較的安くなる。これを機会に、日本でのFIH試験実施の実績を増やし、世界の患者さんのために、日本が得意強みを発揮できる早期臨床開発の分野で貢献できる機会を増やしたい。</p>

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