股関節機能の改善が有効であった遷延性アキレス腱周囲炎の一症例

DOI
  • 森口 晃一
    森寺整形外科 山形県立保健医療大学大学院 保健医療学研究科 理学療法学分野 博士後期課程
  • 森寺 邦晃
    森寺整形外科

書誌事項

タイトル別名
  • O-146 骨関節・脊髄⑤

抄録

<p>【はじめに】 長期化するアキレス腱付着部の疼痛や既往歴由来の股関節症状の残存が心理的にも影響したと考えられる症例に対し、股関節機能も考慮した介入を行ったところ、比較的短期間でアキレス腱付着部の疼痛や心理的影響の改善に至った。その詳細について報告する。</p><p>【症例紹介】 50歳代、女性。診断名は左アキレス腱周囲炎。現病歴は、約5ヵ月前から左アキレス腱付着部に疼痛出現。その後、疼痛増強したため近隣のA医院を受診しインソールを作成。その後も症状が持続したため既往の左股関節唇修復術後の定期診察で受診したB病院で症状を伝え、当院に紹介となる。当院初診時、超音波診断装置(エコー)によりアキレス腱付着部の滑走障害が認められる。</p><p> 既往歴は、左股関節唇損傷、乳がん手術、第3中足骨骨折。</p><p>【初期評価】</p><p>1. 疼痛 安静時痛、運動時痛はなく、左アキレス腱付着部内側に圧痛がありNumerical Rating Scale(以下、NRS)で7、歩行時痛はNRSで5であった。起床時の一歩目や持続座位後の一歩目で強い疼痛を有していた(NRSで8)。また、歩行時に左第3趾にも軽度の疼痛(NRSで3)と左股関節に軽度の違和感を有する訴えがあった。</p><p>2. 左足関節機能 関節可動域測定(ROM):他動および自動での可動域は、明らかな制限は認められなかった。しかし、距腿関節内外旋中間位で他動による足関節背屈運動を行うと足部の外転が生じ、股関節の内旋を伴う現象が見られた。</p><p>徒手筋力検査(MMT):前脛骨筋は5、下腿三頭筋は4であった。</p><p>3. 疼痛破局的思考尺度(PCS)</p><p> 反芻16点、無力感10点、拡大視12点、合計38点であった。</p><p>4. 歩行 初期接地時、左股関節は内旋位および足部内転位を呈し、立脚中期において体幹が軽度の左傾斜を伴う歩容であった。立脚後期の踵離地では通常生じる足部の回外が見られず足部回内が生じていた。</p><p>5. 股関節機能 ROM(右/左):屈曲110°/110°、伸展10°/0°、内転20°/15°、外転45°/45°、外旋50°/35°、内旋45°/50°</p><p> MMT(右/左):屈曲5/5、伸展4/3+、内転4/4、外転5/3+、内旋5/5、外旋5/4</p><p>6. 運動恐怖 左股関節外旋時に恐怖感あり。Visual Analog Scale(VAS)で51㎜であった。</p><p>【理学療法および経過】 理学療法開始時は、徒手療法を中心にアキレス腱の滑走性と距骨下可動性改善、足関節運動軸の改善を図った。しかし、疼痛の改善が乏しいため、問診ならびに歩行観察の結果から股関節機能評価を実施し、骨盤帯および股関節機能に着目した介入内容に変更した。左腰腸肋筋の過緊張改善、寛骨後傾角度の増加、股関節伸展および外転筋群の選択的収縮力の増加を目的とした運動療法とセルフエクササイズ指導を追加した。結果、歩行時の左第3趾の疼痛は消失し、左アキレス腱付着部の疼痛も軽減した。</p><p>【再評価】</p><p>1. 介入期間・頻度 週に1回程度、合計7回の介入。</p><p>2. 疼痛 歩行時痛は消失、起床時および持続座位後の1歩目はNRSで2以下に改善した。左股関節の違和感はほぼ消失した。</p><p>3. 左足関節機能</p><p>他動背屈時の足部外転および股関節内旋が改善された。</p><p>4. PCS 38点から23点に改善した。</p><p>5. 股関節機能(左) ROM:伸展10°、外旋45°</p><p> MMT:伸展4、外転4、外旋5</p><p>6. 運動恐怖 左股関節外旋時の運動恐怖は軽減し、VASで22㎜となった。</p><p>7. エコー アキレス腱付着部の滑走性の改善が認められた。</p><p>【まとめ】 エコーによる病態把握に加えて、既往歴に関連する股関節機能障害が足関節に及ぼす影響を考慮した介入が、アキレス腱周囲の長期的な疼痛さらに残存する股関節症状の改善に至り、心理的影響にも良好な結果をもたらした。</p><p>【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に沿い、また対象者には発表の目的などを説明し同意を得た上で演題登録を行った。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390580239850527872
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2023.0_146
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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