転移性脊椎腫瘍による脊髄損傷患者に対してADL 拡大を目的としたリハビリテーション

DOI
  • 持留 魁人
    垂水市立医療センター 垂水中央病院
  • 竹下 康文
    垂水市立医療センター 垂水中央病院
  • 日高 雄生
    垂水市立医療センター 垂水中央病院
  • 下世 大治
    垂水市立医療センター 垂水中央病院
  • 宮﨑 宣丞
    鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 運動機能修復学講座 整形外科学
  • 柳田 紘和
    垂水市立医療センター 垂水中央病院
  • 加治 智和
    垂水市立医療センター 垂水中央病院
  • 廣畑 俊和
    鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 リハビリテーション医学講座

書誌事項

タイトル別名
  • O-148 骨関節・脊髄⑥

抄録

<p>【はじめに】 がんは進行とともに様々な部位に転移を生じるが、骨は転移の好発部位である。転移性骨腫瘍に対する治療は脊椎固定術、装具療法、放射線照射が選択されるが、腫瘍浸潤によって脊髄圧排が引き起こされると運動麻痺や膀胱直腸障害によって患者の日常生活に大きな影響を及ぼす。今回、転移性胸椎腫瘍によって脊柱管浸潤をきたした患者に対して後方固定術が施行され、下肢不全麻痺が後遺しているものの残存機能を活かしADLの改善を図った症例を経験したため報告する。</p><p>【症例】 80代女性、身長156 ㎝、体重38.7 ㎏、BMI15.9。自宅内で転倒、救急搬送され、CTにて胸椎に椎体溶解と脊柱管の圧排を伴う腫瘍像を認めた。同日他院にて、T3-8固定術、T5-6椎弓切除術を施行され、発症から1ヶ月後リハビリテーション継続目的で当院へ転院された。</p><p> 初期評価時、不全対麻痺状態であり、上肢機能はMMT3レベルで機能は温存され、握力:右15.8 ㎏、左14.4 ㎏、下肢機能はMMT3レベルで膝伸展筋力:右0.143 ㎏f/㎏、左0.128 ㎏f/㎏であった。肛門随意収縮・肛門深部圧ともになく、膀胱直腸障害を認めていた。活動面は移動能力が車椅子移動、排泄関連動作がFIM小項目の排泄コントロールは1点、トイレ動作は1点、移乗:トイレは4点であった。対象者には説明を行い、同意を得た後に実施し、ヘルシンキ宣言に則り倫理的配慮に基づいてデータを取り扱った。</p><p>【理学療法経過】 患者のニーズは排泄関連動作の自立であり、トイレ動作獲得に向けて運動療法は下肢筋力を中心に筋力増強訓練、車椅子駆動練習を実施した。一般的な起立練習ではなく、プッシュアップ動作を意識した起立練習を積極的に行った。4週目以降、徐々に排泄時の知覚も改善を認め、監視にて自室ポータブルトイレでの排泄が可能となった。また、下位更衣・清拭などの動作も徐々に獲得され、移動能力も歩行練習を開始し、歩行器歩行20m程度軽介助レベルとなった。7週目以降では、排泄時ナースコールを使用し、歩行器歩行監視にて病棟内トイレまで移動し、移乗動作やトイレ内動作も監視レベルで実施可能となった。</p><p> 9週間目の最終評価時には、上肢機能はMMT3レベル、握力:右15.9 ㎏、左15.3 ㎏と維持が図れ、下肢機能はMMT4レベルで膝伸展筋力:右0.303 ㎏f/㎏、左0.274 ㎏f/㎏と向上し、移動能力が歩行器歩行監視レベルまで改善した。排泄関連動作はFIM小項目の排泄コントロールは5点、トイレ動作は5点、移乗:トイレは5点と改善を認め、施設退院となった。</p><p>【考察】 がんの骨転移による脊髄損傷をきたした症例に対しては、一般的に生命予後の観点から緩和的なリハビリテーションに移行するケースも多い。しかし、本症例では脊髄病変以外は全身状態が比較的安定していることから、機能回復を目的とした集中的なリハビリテーション治療を行い、ADL・QOLの改善を図ることができた。</p><p> また、患者のニーズであった排泄関連動作は監視レベルで行えるようになった。これは膀胱直腸障害の改善がみられる前から、早期に排泄に関連する動作を習得させ、自身のタイミングでポータブルトイレでの排泄をチャレンジできたことが排泄機能をさらに向上させる要因になったと考えられる。</p><p> がんの骨転移、脊髄損傷の患者の生命・身体機能の予後は介入当初に見通しが立たず難渋する症例も少なくない。しかし、予後に限らず早期に目標を定め、患者のニーズに応えた上でADL・QOL改善を目指して残存機能を活かしながら理学療法に取り組むことが重要であると考える。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390580239850531840
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2023.0_148
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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