足底への振動刺激とリズミック・スタビリゼーションの導入にて顕著な立位バランス能力の向上を認めた小脳腫瘍内出血患者の一例

DOI
  • 小原 卓博
    鹿児島大学病院 リハビリテーション部
  • 宮田 隆司
    鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 リハビリテーション医学
  • 大濵 倫太郎
    鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 リハビリテーション医学
  • 宮良 広大
    九州看護福祉大学 看護福祉学部 リハビリテーション学科
  • 黒仁田 武洋
    鹿児島大学病院 リハビリテーション部
  • 倉内 健生
    鹿児島大学病院 リハビリテーション部
  • 下堂薗 恵
    鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 リハビリテーション医学

書誌事項

タイトル別名
  • O-018 成人中枢神経④

抄録

<p>【目的】 運動失調とは協調運動の障害であり、運動や動作を円滑に行うため多数の筋肉が調和を保って働くことができなくなった症状である。今回、小脳腫瘍出血後の運動失調の影響でバランス能力の低下や歩行障害を呈した回復期患者に対し、種々の治療介入にもかかわらず立位バランス能力の向上に難渋した。その原因として足底の感覚障害や下肢筋群の協調的な収縮不全を考え、全身振動刺激装置を用いた足底への振動刺激やリズミック・スタビリゼーションを治療に導入したところ、顕著な立位バランス能力の向上を得た症例を経験したため報告する。</p><p>【症例】 患者は70代女性、診断名:小脳腫瘍内出血、障害名:左片麻痺、運動失調。第21病日に当院リハ病棟へ入棟。初期評価(第21病日):MMSE:30点、左片麻痺:BRS.Ⅵ、表在感覚:大腿4/10、下腿4/10、足底4/10、セメスワインスタイン・モノフィラメント知覚テスター(以下、SWM):防衛知覚低下(4.31F㎎)、深部感覚:股関節4/4、膝関節3/4、足関節2/4、足指1/4、麻痺側MMT:股屈曲3、股外転2、膝伸展4、足背屈3、SARA:23点、SPPB:0点、BBS:9点、基本動作:軽介助、FAC:1、FIM:54点。理学療法は1時間/日、週7日とし、筋力増強練習、振動刺激併用下での促通反復療法、歩行練習を実施した。</p><p>【経過】 第49病日時点で表在感覚:大腿4/10、下腿4/10、足部4/10、SWM:触覚低下(3.61F㎎)、SARA9.5点と運動失調が残存し、立位や歩行に介助を要した。そこで、1)筋力増強練習、2)促通反復療法などの機能練習に追加して、3)車椅子座位にて全身振動刺激装置を用いた足底への振動刺激(35 ㎐、60秒を3セット)、4)リズミック・スタビリゼーション(介入姿勢は両膝立ち位、体幹・骨盤に各方向から2~3秒抵抗運動を加えるのに対して患者は姿勢を保持)を計30分、5)歩行練習は立位バランス・歩行能力に合わせて、平行棒内、歩行器、独歩練習と段階的に難易度調整を行う練習を30分実施し、1)~5)で合計60分実施した。第21(入棟時)、49、63、107病日(退院時)の経過は、表在感覚(足底):4、4、6、9/10、SMW:防衛知覚低下(4.31F㎎)、触覚低下(3.61F㎎)、触覚低下(3.61F㎎)、触覚正常(2.38F㎎)、深部感覚:足関節2、2、4、4/4、足指1、2、4、4/4、麻痺側MMT(股屈曲/外転/足背屈):3/4/4/4、2/3/4/4、3/4/4/4、SPPB:0、2、6、12点、SARA:23、9.5、6、3点、BBS:9、24、41、52点、FAC:1、2、3、5点、FIM:54、91、117、124点であった。</p><p>【考察】 本患者においては基礎疾患が脳腫瘍であるにもかかわらず良好な退院時評価を得た。そのメカニズムとしては、定期的に種々の機能における詳細な評価のもと、足底感覚障害、運動失調による立位バランス能力の低下に対して、足底への振動刺激により、足底機械受容器の活性化(Presznerら、2012)や姿勢制御能力の向上(Özvarら、2020)が促されたこと、加えてリズミック・スタビリゼーションにて動筋・拮抗筋の等尺性収縮を交互に行なうことで(柳澤ら、2011)、協調的な収縮が得られやすくなり(Caycoら、2017)、同時収縮による骨盤や下肢の固定が可能となり、最終的に立位バランス能力の向上に繋がった可能性を考えた。</p><p>【倫理的配慮(説明と同意)】 患者には定期評価や介入方法の目的、症例報告について十分説明し、文書による承諾を得て実施した。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390580239850555008
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2023.0_18
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ