新型コロナウイルスワクチンの免疫獲得機序と変異株への対応

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抄録

2019年12月に中国武漢から発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)は全世界に広がり、2020年3月11日に世界保健機構はパンデミックと表明した。COVID-19パンデミックが世界の公衆衛生、社会および経済に与えた影響は甚大であり、SARS-CoV-2に対するワクチン開発は喫緊の課題となった。2020年1月にウイルスの遺伝子情報が明らかにされてから、前例を見ない速度でワクチン開発が進められた。従来のワクチンプラットフォームとして、弱毒化した生ワクチン、ウイルスをホルマリンなどで不活化した全粒子ワクチン、さらにはタンパク質ベースのワクチン(プロテインサブユニット、ウイルス様粒子)が使用されてきた。SARS-CoV-2ワクチンでは、従来の手法を用いたものに加えて、ウイルスベクターワクチン(弱毒化麻疹ウイルスといった細胞内で複製できるタイプ、およびアデノウイルスなどの複製できないタイプ)や核酸ワクチン(DNAワクチン、mRNAワクチン)など様々な技術を用いたワクチンが開発されていることが特徴である。日本では、2021年2月よりワクチン接種が開始され、8月末までに累計約7000万人が1回以上の接種を受けている。現在接種が進められているワクチンは、優れた発症予防効果を持ち、実地使用下での感染予防、重症化予防効果も報告されてきている。接種後の副反応も容認される程度と考えられ、今後さらに迅速に接種が推進されることが強く望まれる。一方で、世界に先駆けて接種を開始した国々からは、経時的な抗体価低下、ワクチン有効性の減弱が報告されており、今後わが国でもワクチン接種後罹患例の増加が懸念されている。 コロナウイルスはRNAウイルスであるため変異を起こしやすい特徴を持ち、SARS-CoV-2も変異株の出現が報告されている。感染・伝播のしやすさや、感染した場合の重症度、そして感染やワクチンにより獲得された免疫の効果に影響を与える可能性のある遺伝子変異を持つ変異株は、懸念される変異株(Variants of Concern; VOC)として特に注意が必要である。現時点で4種類のVOCが報告されている。最初に英国で検出されたアルファ株は、感染性に影響があるとされるN501Y変異を持ち、2次感染率の増加が示唆されている。さらに抗原性に影響を与える可能性があるE484K変異も有するベータ株、ガンマ株も、南アフリカおよびブラジルから世界の国々に広がり、ワクチン有効性への影響につき検討が進められている。L452R変異を持つデルタ株は、2020年10月にインドで最初に検出され、高い感染性を持つ(アルファ株の1.5倍)可能性が示唆され、日本でも従来株との置き換わりが起こっている。デルタ株はワクチン効果を弱める可能性も懸念されている。 本講演では、新型コロナウイルスワクチンの特徴および免疫獲得機序について、基礎的なワクチン免疫学の視点もふまえて解説を行う。さらに変異株の出現が感染性、病原性、ワクチン有効性に及ぼすインパクトについてこれまでの知見を整理し、ワクチンブースター接種の必要性を含めた今後の感染制御戦略について考察する。 略歴 1989年三重大学医学部卒業。同年より、三重大学医学部附属病院小児科等に勤務し、1997-1999年米国FDA留学。2001年より三重大学医学部小児科学講座助手。病棟医長、外来医長、NICU医長を歴任。2008年より国立病院機構三重病院小児科。2015年より現職。 専門分野:小児科一般、小児感染症、ワクチン、小児内分泌・糖尿病。

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  • CRID
    1390580925873482240
  • DOI
    10.24635/jsmid.46.2_207
  • ISSN
    24337307
    13431439
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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