『愚公山を移す』における〈パフォーマンス〉――上海档案館から発見した撮影記録資料に基づいて

DOI
  • 龐 鴻
    東京大学総合文化研究科博士後期課程

書誌事項

タイトル別名
  • The Performance in <i>How Yukong Moved the Mountains</i> (1976): A Study Based on Filming-Related Documents Discovered in the Shanghai Archives

抄録

<p>ヨリス・イヴェンスとマルセリーヌ・ロリダンが1970年代に中国で制作した『愚公山を移す』(1976)は、文化大革命の時代に中国に入国できたわずかな西洋人が手掛けた映画であるが、その信憑性について多くの議論がなされてきた。上海档案館に所蔵されている撮影現場の録音記録、撮影活動の報告書や日程表といった書類から、撮影の状況を把握することができる。本稿ではアーカイブ資料をもとに、上海を描いた3作品に焦点を当て、映像分析をしながら、ドキュメンタリー映画とされてきた『愚公山を移す』におけるパフォーマンスの存在を考察し、その演技と当時の現実との関係性を検討する。</p><p>まず、具体的なシーンを取り上げ、ショットの繋がりを検証しつつ、録音記録の中に同じ内容の会話が何回も繰り返されている部分があることなどから、撮影において演出と演技があったことを明らかにする。その上、国家イデオロギーの規範の下での自意識による自己の呈示を検討し、それがカメラの前で指示を受けたパフォーマンスの基盤となっていることを指摘する。最後に、ドキュメンタリーにおけるパフォーマンスと文革期の特殊な社会的属性における「真実」の複雑な理解と表現との関係を論じる。被写体は自己イメージを統制することで理想的な人間像を伝えようとしていると同時に、そうした「新しい人間」のイメージはイヴェンスとロリダンの共産主義のユートピアに対する想像に合致していたと考えられる。</p>

収録刊行物

  • 映像学

    映像学 111 (0), 157-176, 2024-02-25

    日本映像学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581070826997888
  • DOI
    10.18917/eizogaku.111.0_157
  • ISSN
    21896542
    02860279
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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