障害児家族の医療における意思決定及び満足度に対し医療従事者の言動が与える影響

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p> <p>長い歴史の中で医療従事者は障害という概念に大きな影響を与えてきている。多くの先行文献より、医療従事者が障害者を自己決定が困難なケアの受給者であると位置づけ、自律性を制限してきたことが指摘されている。これは、医療におけるパターナリズムや、障害の個人モデル等といった形で整理され、批判及び改善の対象ともなっている。さらに障害児を育てる保護者に医療従事者が与える影響も懸念され、共同意思決定の重要性が注目されつつある。本研究では、日本国内において医療従事者の言動や、障害児を育てる保護者にとってどのような影響を与えるか、探索的に検討する。 </p> <p>【方法】</p> <p>本研究の対象は先天性疾患を有する児の母親5名とした。ライフコースに沿った半構造化面接を実施した。ライフコースは出生/診断/就学前/就学前後/現在の5つに分類し、それぞれの期間に分けて質問を行った。インタビュー内容につ いては文字起こし後、文脈に沿って意味を最小限の言葉で補い、コードとして抽出した。抽出されたコードは、意味的類似性に従って分類し、カテゴリー化を行った。また、当事者の視点を十分に研究に活かすため、インタビューは2セッション行われ、 2セッション目には1セッション目で得られた内容について参加者とインタビュアー間でディスカッションしながらフィードバックを受けた。 </p> <p>【結果】</p> <p>母親の年代は全て40代、児の平均年齢は8歳であった。 5名中4名は、身体・知的障害を重複して有しており、特別支援学校に在籍している。また、3名は日常的に医療的ケアが必要 であった。ライフコースの中で、特に出生・診断の時期において多くの発言が見られた。同時期における医療従事者に対する印象はポジティブなものが大半であり、感謝の意が多く述べられた。一方で、医療・ケアにおける意思決定について、日常的に参加していると答えたのは1名のみであった。さらに、大半の 参加者は医療従事者を”先生”と呼び、医療従事者の発言を非常に重くとらえていると答えた。医療従事者の実施する治療内容に細かに質問をしたり、場合によっては意を唱えることには大半の参加者が抵抗感を示した一方、医療従事者と丁寧に質問・回答のプロセスを繰り返してきた母親は、自身の知識や決断に対し自信を持てるようになったと答えた </p> <p>【考察】</p> <p>本研究において、多くの母親は医療従事者に対しポジティブな印象を持ち、受けてきた医療についても満足度は高いことが伺えた。一方で、医療従事者と対等な関係を築き、意思決定を促されてきたかという問いに対しては否定的で、母親の主観的な満足度と共同意思決定が必ずしも関連しないことが示唆された。これは、医療従事者の方針や意見が、障害児の母親に与える影響力が大きいことを示している。適切な情報提供を行うことは大前提であるが、そのうえで障害者・家族の自律な意思決定を支援することも医療従事者にとって重要な役割である。本人・家族が治療に満足しているか、という1点のみで医療従事者が自身の治療の質の良し悪しを決定するのではなく、いかに意思決定を促せているかという視点でも自身を省みることが重要である。 </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p>本研究において、参加者は書面と口頭にて説明がなされ、書面にて同意を受けている。またUniversity of Leeds, School of Social Scienceの倫理委員会にて承認を受けているものである。</p>

収録刊行物

  • 小児理学療法学

    小児理学療法学 2 (Supplement_1), 102-102, 2024-03-31

    一般社団法人 日本小児理学療法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581148793897088
  • DOI
    10.60187/jjppt.2.supplement_1_102
  • ISSN
    27586456
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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