発達の遅れに対し自発性を重視した介入を実施し独歩獲得に至った一症例

DOI
  • 東 周平
    北九州市立総合療育センター 訓練科 理学療法係

抄録

<p>【はじめに、目的】</p> <p> 乳幼児への早期介入において家族の関与や目標指向,子ども自身が能動的に学習するための課題設定,最小限の徒手介入は重要な要素と考えられている.今回,発達の遅れに対し自発性を重視した介入を実施し独歩獲得に至った一症例について報告する. </p> <p>【方法および症例報告】</p> <p> 症例は運動発達の遅れと強いかんしゃくを主訴に1歳時に当センターを紹介され理学療法外来 (外来)が開始された.運動発達歴は頚定4ヵ月,座位6ヵ月,寝返り7ヵ月,腹這い11ヵ月であった.1歳時の遠城寺式乳幼児分析的発達検査 (遠城寺)は移動運動7ヵ月,手の運動8ヵ月,社会性10ヵ月,Alberta Infant Motor Scale (AIMS)は総スコア38であった.初回の外来では母の膝に座り人と場所を警戒する様子がみられ,セラピストが近 づくと啼泣した.そこで,児から離れて母と遊ぶ様子を見守り,児が母の膝から下り腹這いで玩具に向かって移動した後に声掛 けすると,児が手に取った玩具の受け渡しを繰り返すことができた.また,問診より,腹這いを獲得するまで自ら動いて物に触れることがなく移動が非常に少なかったとの情報を得た.これらのことから,児にとって安心できる環境の中で,自発的に移動する動機付けを行うことが重要だと考えた.家庭での関わりとして,腹這いで大人の脚を乗り越え四つ這いを促すこと,四つ這い位の視線の高さに玩具を置き上方への注意を促しつかまり立ちへと誘導することを伝えた.外来頻度は月1回とした. </p> <p>【結果および経過】</p> <p> その後3回の外来では外来時間の半分で啼泣し児の発達を観察することが困難であったため,外来頻度を週1回へ変更した.すると,次の外来から警戒する表情はみられるも啼泣せず,問 診上の家庭での様子と同じ運動や遊びがみられるようになった.理学療法介入は,身体への徒手介入は転倒のリスク管理に留め,玩具の受け渡しや,操作が成功した際の称賛の声掛けなど,遊びを介したコミュニケーションを重視した.玩具は発達段階と児の嗜好を考慮して選択し,自発的な移動につながる玩具の配置を考え環境を設定した.そして,つかまり立ちから床に座ることが可能な台の高さや,つかまり立ちで数分間遊んだ後に玩具の位置を移動させると伝い歩きの頻度が増加することなど,設定の工夫により児は移動能力を発揮することを母に示し家庭での実践を依頼した.また,玩具棚から関心のある物を選択したり,室内を自由に移動して部屋中を探索したり,児が自身で行動を決定する機 会を設けた.母からは家庭での実践と児の行動変化の報告を受け,積極的に関わる様子を確認した. 児は1歳7ヵ月で独歩を獲得した.この時の遠城寺は運動と社会性が1歳2ヵ月,AIMSは総スコア57であった.母からは昔とは性格が変わったように積極的に移動するようになったという回答を得た. </p> <p>【考察】</p> <p> 今回の介入では外来頻度の変更が大きな転機となった.外来では,児が安心できる場を提供し,能力を発揮し得る環境設定を行うことが重要であり,それは家庭における家族の関与の向上に寄与するものと考える. </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p>症例の家族へ本報告の趣旨と内容,個人情報の取り扱いを説明し,同意を得た.</p>

収録刊行物

  • 小児理学療法学

    小児理学療法学 2 (Supplement_1), 117-117, 2024-03-31

    一般社団法人 日本小児理学療法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581148793904640
  • DOI
    10.60187/jjppt.2.supplement_1_117
  • ISSN
    27586456
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

問題の指摘

ページトップへ