重度肢体不自由児が就学する普通小学校におけるリフト導入の効果

DOI
  • 川﨑 浩子
    びわこリハビリテーション専門職大学 リハビリテーション学部 理学療法学科

抄録

<p>【はじめに】</p><p> 共生社会実現のため、インクルーシブ教育構築が進められ、地 域の普通小中学校に就学する重度肢体不自由児は増加している。教員は、授業以外に児童の自立活動や生活の様々な介助を行う。特に、児童を抱え上げての移乗は、腰に大きな負担が生じ、腰痛が多発する一因となっている。今回、重度肢体不自由児が通う普通小学校から、「児童の介助が困難になっている」という相談を受け、リフト導入によって問題が解決した事例を経験したため報告する。 </p><p>【事例紹介】</p><p> 特別支援学級の在籍児童は1名、脳性麻痺 (痙直型四肢麻痺)、身長120㎝、体重25㎏の女児である。学校では、主に担任 (女性)と看護師の2名体制で、学習と生活の支援を行っている。 </p><p>【介入と経過】</p><p> 5年生の12月、「担任の妊娠が判明、看護師の腰痛症が悪化し、児童の教育、生活の介助が困難になっている」と相談があった。小学校を訪問し、聞き取り、教室の環境評価、活動の様子の観 察から、児童の抱え上げが最も負担が大きいと考えられ、解決策として床走行リフト導入を提案した。 まず、医療機関にリフト移乗の可否を確認し、校長をはじめとする学校関係者、保護者同席で、床走行リフトのデモを実施した。この時、児童の喜ぶ表情を見て保護者の受け入れとリフト使用環境に問題がないこと、リフトの操作には手間と時間がかかるが、介助者の身体的負担が減ることを確認した。 デモの後、学校と教育委員会で検討され、3学期から児童が卒業するまでの間、正式に床走行リフトを導入することが決まった。導入後は、使用時の問題がないか、担任・看護師の負担が軽減したかをフォローした。 その後、リフトは積極的に活用され、5年生の担任は、年度末まで担任を続けることができ、看護師の腰痛症状は軽減した。 4月に6年生の新担任へ引き継がれたが、卒業まで腰痛を起こすことはなかった。さらに6年生の冬休みに、看護師が両足を骨折するアクシデントに見舞われたが、リフトがあることで、歩行困難な状況でも復職が可能となり、卒業式を迎えることができた。 </p><p>【考察】</p><p> 教員や看護師に起こった、妊娠や疾病などによる体調不良・怪 我によって、児童の学校生活の支援の継続が困難になる事態は、労働安全衛生上の問題が大きく、児童にとっても不利益が大きい。教育現場では抱え上げによる移乗が行われているが、今回のリフト導入は、身体的負担を減らす効果があった好事例となったと考える。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p>患者の個人情報が特定されないよう配慮した。発表にあたり、家族に説明を行い、同意を得た。また、本研究は、倫理委員会の承認を得ている (承認番号: Kanazawa-OSMC-2023-001)。</p>

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