「再生産」50年と日本に於ける受容

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  • 50 Years of “Reproduction” and Japan’s Adoption of the Theory

抄録

<p> 文化的再生産の理論は,無償の公教育を実現し,教育機会の平等を保障しながら,依然上層階層の再生産と下層階層の再生産が維持されているフランス社会の現実を解明すべくP. ブルデューらにより打ち立てられた。こうした不平等の再生産は,中下層の教育的成功を阻む経済的障害と並んで文化的障害によるところが大きい。これが文化的再生産仮説の核心である。同理論の影響は各国に及んだ。アメリカの場合に一瞥すると,P, ディマジオはその調査に基づき,生徒たちの教育達成には相続的文化資本よりも獲得的文化資本が強く作用するとみ,再生産モデルよりも移動モデルが妥当すると論じた。<br> 1970代に日本に文化的再生産理論が紹介されたが,「総中流社会」の幻想が支配しており,同理論が受け入れられるに至らない。しかし,80年代に,部分的に再生産理論の影響を受けつつ,同和地区の生徒の学校挫折,低進学率とその条件の研究が行われ,成果を上げた。<br> 1980年代およびそれ以降,有力大学に学ぶ者の出身階層が高まり,教育における社会的不平等とは何かが論点になってくる。そうした状況下で,若干の研究者が,文化的再生産の過程と関連づけて学生とその文化の調査を行った。その結果として二つの発見事項があった。第一に,学校的成功,社会昇進を可能にする文化資本は,日本の伝統的な文化ではなく,西欧起源の知や教養からなっていること,第二に,そうした文化資本の享受の階層差は,学生を対象とする限り,大きくなく,これは文化資本形成が,相続文化だけでなく,共時的な学習,メディア接触,直接の文化体験などによってもなされていることを意味する。<br> 比較的高学歴の上層の家族が,次世代における学歴と地位の再生産をはかるため親が子どもの教育に介入するペアレントクラシーが日本にもみられ,これへの批判的な考察が行われ,それが子どもの教育戦略の遂行を母親の役割とみなす点でジェンダー差別を伴っているとする指摘もなされている。また,日本的な文化的再生産過程がしばしば見えにくく,文化的平等神話によって隠蔽されるのはなぜか,という問いも研究者によって提起された。その回答として,日本の上層階層の人々が大衆文化も楽しむ「文化的オムニボア」であるからという論が行われた。興味深い指摘であるが,そのことが社会的再生産プロセスにどん影響を及ぼすかは十分明らかではない。</p>

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