[招待講演]海底地形に制約された完新世の東南極トッテン氷床変動

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  • [Invited] Holocene changes of the East Antarctic Totten Ice Sheet constrained by submarine topography
  • <b>【ハイライト講演】</b>

抄録

<p>__近年、南極では外洋の温暖な深層水が棚氷の下面に入り込むことによる棚氷の融解/氷床の海への流出が懸念されている。特に巨大氷冠を有する東南極トッテン氷河の流出は、世界の海水準上昇に与える影響が大きく、その動態が注視されている。しかし、この海域は厚い海氷に覆われているために十分な観測が行われていない。第61次日本南極地域観測隊(2019-2020年)は、トッテン氷河前縁の大陸棚において南極観測船「しらせ」を用いた観測を展開し、この海域においては世界初となる海底コアの採取にも成功した。本講演では、これらの海底コアのマルチプロキシ分析(堆積相解析、微化石、10Be/9Be比、バイオマーカー等)から明らかにされつつある完新世のトッテン氷河後退プロセスについて議論する。__計5本の海底コア(コア長:1.8〜3.9m)は、トッテン氷河前縁大陸棚の水深403〜842mでグラビティーコアラーを用いて採取された。いずれもコア上部は、生痕の認められる泥質堆積物で構成され、棚氷に覆われていない環境を示す珪藻や放散虫などの珪質微化石が多産している。一方、その下位は礫質の砂あるいは泥で特徴付けられ、時にはコア先端の鉄製ビットが固い礫層に当たって大きく変形してしまう事があった。これらは、氷河性の礫質堆積物と考えられ、棚氷下の環境で近傍には氷床の接地線が存在していたことを示唆している。棚氷下から開氷面への移行(カービングラインの通過)は、銀河宇宙線により生成された10Beと9Beの比率からも支持され、放射性炭素年代測定の結果によると、そのタイミングが大陸棚中央部付近では約11〜9千年前、氷河前縁付近では約6〜4千年前であることが示された。また、約4.5〜4千年の期間には、棚氷が一時的に前進していた可能性がある。__最終氷期に南極周辺の大陸棚を広く覆っていた氷床は、前期〜中期完新世で急速に後退し、それと共に氷床高度が低下したことが知られている。前期完新世におけるトッテン氷床の後退は、他地域のタイミングともほぼ一致しており、最終氷期から完新世にかけての海水準上昇と棚氷下への温暖深層水移入が関連していたと考えられる。一方、中期完新世の終盤まで続いたトッテン氷床後退は、これまでの他地域からの報告と比べても最も若い記録のひとつとなっている(但し、産業革命以降を除く)。__何故、トッテン氷床の後退が約4千年前まで続いたのかは、現段階で海底コアの解析やモデル実験のみから読み取ることは出来ない。一方、過去の氷床接地線が地形的な高まりによって制約されていたと考えられ、起伏に富んでいる現在のトッテン氷河前縁域も過去に氷床が接地していた痕跡が残されている。すなわち、中期完新世頃まで接地していた氷床が地形的制約から解放されて現在の位置にまで後退していった可能性があり、氷床後退メカニズムの解明には棚氷下への温暖深層水移入と合わせて海底地形も重要な要素として考慮する必要がある。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581235165192064
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_159
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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