(エントリー)野母半島長崎変成岩類に分布する蛇紋岩メランジュに見られる交代・変形作用

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  • (entry) Metasomatic alteration and deformation processes in serpentinite mélange rocks from the Nagasaki metamorphic rocks, Nomo Peninsula, Japan
  • <b>★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★</b>

抄録

<p>沈み込み帯の浅部スラブ・マントル境界域は、継続的なスラブ脱水によって高い間隙流体圧状態となっていると予想される(Shelly et al., 2006)。また、過去に浅部マントルウェッジ深度相当のプレート境界域で形成された高圧変成岩類を対象とした構造地質学的研究では、豊富な流体存在下で形成される交代岩が沈み込み境界の力学特性に及ぼす影響に注目している(例えば、Ujiie et al., 2022)。本研究では、過去のスラブ・マントル境界域に相当すると考えられる蛇紋岩メランジュ(Bebout and Barton, 2002)に着目する。野母半島長崎変成岩類中に分布する蛇紋岩メランジュは、曹長岩からなるブロックとアクチノ閃石に富むマトリックスからなり、NaあるいはCaに富む流体がスラブ・マントル境界付近に流入したことが示唆されている(西山ほか,1997)。本研究では、蛇紋岩メランジュ内での交代作用の進行がメランジュ全体の変形様式にどのように影響を与えたのかを明らかにすることを目的として、構造岩石学的研究を行った。 フィールド調査地域は、宮崎町川原木場において蛇紋岩体と白亜紀の結晶片岩類(黒雲母帯;宮崎・西山,1989)の境界部に露出する蛇紋岩メランジュ(西山ほか,1997)である。蛇紋岩メランジュに分布する交代岩は主に変成塩基性岩と曹長岩からなる(西山ほか,1997)。変成塩基性岩は主に曹長石、緑泥石、アクチノ閃石、ゾイサイトからなり、蛇紋岩メランジュ近傍の塩基性片岩と類似した鉱物組合せを示す。しかし、構造や各鉱物の量比は両者の間で大きく異なり、同一の露頭内(数10 m2)において大きく分けて2種類の産状が確認された。1つ目は、幅数cmの曹長石に富む層と緑泥石に富む層が互層状をなしているタイプである。曹長石に富む層は、粒径100〜300 μmで等粒状の曹長石粒子の集合体によって特徴付けられ、一部の層は膨縮構造を呈する。緑泥石に富む層では、層構造に沿って緑泥石が形態定向配列している。2つ目はblock-in-matrix構造を呈するタイプで、幅数cm~数10cmの曹長岩からなるレンズ状ブロック群とアクチノ閃石、緑泥石、ゾイサイトからなるマトリックスで構成される。ブロックには、等粒状の曹長石粒子群の粒界に緑泥石を含むものと含まないもの、またはアクチノ閃石を含むものの3種類が存在した。マトリックスはアクチノ閃石または緑泥石の強い形態定向配列で特徴付けられる。これらの変成塩基性岩は、幅数cm程の緑泥石-アクチノ閃石片岩からなる延性剪断帯によって後生的に切られている。また、蛇紋岩体との境界付近では曹長岩からなる幅数mのマイロナイト化した剪断帯が分布し、粒径30〜100 μmで等粒状をなす曹長石粒子群からなる。 変成塩基性岩は、周囲の塩基性片岩と比較して曹長石と緑泥石に富むことから、塩基性片岩にNaやMgに富む流体が付加したことにより形成されたと考えられる。互層状をなす原因について不明であるが、元々存在していた片理に沿ってNaとMgの含有比が異なる流体が流入した結果であるかもしれない。block-in-matrix構造については、互層状をなす変成塩基性岩がテクトニックに混在化して形成されたものと思われる。曹長石に富む層は膨縮構造を呈していたことから、緑泥石に富む層に対してコンピーテントな層として存在していたと考えられる。このことは、曹長石に富む岩石がブロックとして存在している産状と調和的である。また、block-in-matrix構造のマトリックスにおいてアクチノ閃石が多く存在することは、混在化が起きた際あるいはその後にCaに富む流体が流入したことを示唆する。さらに、緑泥石-アクチノ閃石片岩の形成は、変成塩基性岩内に開口成分をもつ破断が起き、CaやMgに富む流体が流入した結果であると考えられる。緑泥石-アクチノ閃石片岩は延性剪断帯として活動していたことから、アクチノ閃石や緑泥石がより多く析出した領域は力学的に弱くなり、歪の局在化が起こる場所となると考えられる。以上のように、本地域の蛇紋岩メランジュには複数のステージの交代作用が起きており、交代作用の進行にともなってスラブ・マントル境界域において変形集中帯として活動した可能性がある。 引用文献:宮崎・西山(1989),地質学論集,33,217-236.西山ほか(1997),日本地質学会104年学術大会見学旅行案内書,131-162.Bebout and Barton. (2002), Chem. Geol. , 187, 79-106. Shelly et al. (2006), Nature, 442, 188-191. Ujiie et al. (2022), Geochem. Geophysi. Geosyst. 23, e2022GC010569.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581235165267968
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_286
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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