マグマ形成領域の自己組織化臨界状態と深部変成帯及び浅部プルトンの形成

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タイトル別名
  • Self-organization critical state of magma source region and formation of deeper metamorphic belt and shallower pluton

抄録

<p>地殻下底から上昇する珪長質マグマのバッチサイズに着目して,深部でミグマタイトを生じるような高温型変成帯(以下深部高温型変成帯)の形成と浅部でのプルトン(以下浅部プルトン)の同時形成が可能かどうかを検討した.その結果を九州北部糸島―脊振山系雷山地域のプルトン−変成岩の形成過程に適応した.本研究では,玄武岩マグマの底付け付加よる加熱により,地殻下底のマグマ生成域において下部地殻の部分溶融で珪長質マグマが形成されるとする.生成域では,小さなマグマバッチが空間的にランダムに生じる.生成されたマグマバッチは,他のマグマバッチと接した場合,合体する.一定サイズ以上になったマグマバッチは,生成域から上昇離脱する.このプロセスが,繰り返し起こると,生成域及び離脱上昇するマグマバッチのサイズ分布は指数-mのべき分布となる.モデルでは,べき分布の指数が時間と共に変化しない定常状態が出現し,自己組織化臨界状態(SOC)に達する(Bons, et al., 2004).生成域からのマグマの上昇は,マグマに充填されたクラックが進展することで起こる (Bons et al., 2001).クラックを充填するマグマバッチのサイズが大きいほど,進展速度が速い(Bons et al., 2001).大きなマグマバッチは,冷却されることなく,地殻浅部まで上昇する.一方,小さなマグマバッチは,冷たい地殻ではすぐに固結してしまう.小さなマグマバッチが大量に上昇を続ければ,地殻下部は徐々に加熱され,深部高温型変成帯が形成される.モデルでは,浅部プルトンと深部高温型変成帯の同時形成が可能である.珪長質マグマの総量のうち,どの程度が浅部プルトンの形成に関与し,どの程度が深部高温型変成帯の形成に関与するかは,マグマバッチサイズ分布の指数に依存する.mが大きいほど深部高温型変成帯の形成に有利なり, mが小さいほど浅部プルトンの形成に有利になる.上記のモデルを糸島−背振山系雷山地域の地質に適応した.この地域の花崗閃緑岩は,花崗閃緑岩のジルコンのU-Pb年代(村岡,2021; 堤・谷,2022)と地質調査の結果により,北から南へ,約112 Maの北崎花崗閃緑岩,約105Maの糸島花崗閃緑岩,約98 Maの糸島花崗閃緑岩として識別できる.それぞれ,南北幅約20km,東西幅約40〜60km広がりを持つ.各プルトンの境界には変成岩が分布する.98 Ma糸島花崗閃緑岩の南縁部にも変成岩が分布する.本研究,及びYamada et al.(2008)より,各プルトンの間及び南縁に分布する変成岩の変成圧力は,3-4 kbarであり,南北約40 kmの距離があるにもかかわらず,大きな圧力差は検出されない.さらに,北崎花崗閃緑岩及び105Ma糸島花崗閃緑岩の定置圧力は,それぞれ2.5-3.6 kbar及び1.6-2.7 kbar(宮本・島田,2016)である.ルーフを構成する変成岩を形成した熱源は,浅部プルトンだと考えられる.浅部プルトンが広く分布する糸島―雷山地域の地殻下底のマグマ生成域から分離上昇したマグマバッチサイズ分布は,比較的小さなべき指数のmを持っていたと考えられる.先のモデルは,深部高温型変成帯の形成を予測する.これに相当する変成岩は,すでに大和田ほか(2000)で存在が指摘されており,雷山山頂付近に分布する.ミグマタイトからなる高温型変成岩で,変成圧力は5-7 kabr,変成ジルコンU-Pb年代は約105 Maと約98 Maが得られた.変成圧力は見かけ下位の層準へ向かい増加する.この変成岩の見かけの厚さは数 km未満であり,形成後に変成岩層の薄化が起きていたと予想される.この変成岩がなぜ雷山山頂付近に分布するのかを考察した.雷山の南方に分布する98Ma糸島花崗閃緑岩の定置圧力は,5.5-6.5 kbar(矢田・大和田,2003)であり,他のプルトンより高圧である.深部高温型変成帯の断片と考えられる変成岩の上昇機構として,深部に定置し完全には固結していない98 Ma糸島花崗閃緑岩が,その周囲の深部高温型変成帯の薄化を伴いながらダイアピルとして上昇した可能性が指摘できる.引用文献 Bons et al. (2001) JMG, 19, 627-633;Bons et al. (2004) Lithos, 78, 25-42; 宮本・島田(2016) 日本鉱物科学会(要旨);村岡(2021)日本地質学会(要旨);大和田ほか(2000) 地雑,56, 229-240; 堤・谷(2022)日本地質学会(要旨);矢田・大和田(2003) 地雑,109、518-532;Yamada et al. (2008) JMPS, 103,291-296.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581235165280000
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_31
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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