ケニア山における2016年~2023年の小規模氷河の質量収支

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  • Mass balance of very small glaciers in Mt. Kenya during 2016-2023.

抄録

<p>1.はじめに</p><p>アフリカで氷河が現存する山域は,赤道付近に位置する東アフリカのキリマンジャロ(5895m),ケニア山(5199m),ルウェンゾリ山(5109m)に限定される.これら現存する山腹氷河は,近年の温暖化で数十年後に消滅すると予想されている.ケニア山では,1899年に18あった氷河が1929年に17,2004年に10(Hastenrath, 2005),2016年に9(Prinz et al., 2018),2018年に8(Narama and Arie, 2021)に減少した.これらはすべて氷河面積が0.5㎞²以下の小規模氷河(Huss and Fischer, 2016)である.</p><p>ケニア山のLewis氷河は,19世紀後半と1934年に地図化された.その後,1979年~1996年と2010年~2014年に現地で質量収支観測が実施された.これらデータから,Lewis氷河の体積は,1934年~2010年の76年間で90%減少したとされる(Prinz et al., 2011).またTyndall氷河では,氷河の後退が測量されており,1919~1994年までの75年間に高度で80m,距離で300mの後退が確認された(水野,1995).この後退速度は,1958~1984年 の26年間で75m(2.9m/a),1984~1992年の8年間で23m(2.9m/a)であり,1958~1992年の期間ではほぼ等速度で後退していた.</p><p>本研究では,2016年~2023年のケニア山の氷河の変化を明らかにするため,2016年に取得されたPleiades衛星画像と,2017年,2018年,2019年,2021年,2022年にセスナ機で空撮したデジタル画像から作成した数値表層モデル(DSM)を用いて,氷河の質量収支を調べた.</p><p>2.方法</p><p>2017年9月21日,2018年8月19日,2019年8月25〜26日,2022年9月1日,2023年8月19日にTropic Air社のセスナ機(Cessna 208B Grand Caravan)からSony α7iiとα7Riiの一眼レフカメラを用いて,1秒間隔で氷河と周辺地形を含めた画像を取得した.撮影は,早朝7時にナニュキ飛行場を離陸して,1時間のフライトで実施された.セスナ空撮画像とSfMソフトのPix4Dmapperを用いて,氷河周辺のオルソ画像とDSMを作成した.これらデータの作成には,2016年2月17日に取得されたPleiades衛星のオルソ画像とDSMから取得した地上基準点(GCP)を用いた.GCPは氷河周辺の長期間で不動箇所を選定した.</p><p>3.結果</p><p>2016年2月~2018年8月の30ヵ月間のCesar氷河とForel氷河を除く六つの氷河の平均質量収支は-3.6 m w.e.であった.この期間にすべての氷河の質量収支は負であった.Lewis氷河では2015年に氷体が分離し,現在では下流部の氷体は消滅した.Lewis氷河の氷体の質量収支は,2019年~2022年で–1.88 m w.e./aであった.これは,Hastenrath (2005)やPrinz et al. (2011; 2018)らによって観測された質量の減少–0.99 m w.e./a (1974–1983) ,–0.70 m w.e./a (1983–1993),–2.22 m w.e./a (1993–2004),–0.63 m w.e./a (2004–2010),–1.47 m w.e./a (2010–2016)と比較すると,2000年代で最近の減少が大きくなっていることを示した.</p><p>4.考察</p><p>一般の氷河は,上流部で年間の質量収支が正になる涵養域,年間の質量収支がゼロになる平衡線,収支が負になる消耗域が存在する.しかし,2016年~2018年の氷河の高度変化を調べた結果,各氷河の全高度帯で質量収支の減少が確認された.このことから,本研究の観測期間の平衡線高度は各氷河の分布高度よりも高い位置であったことが考えられる.この地域の氷河は,赤道付近で暖められた大気が上昇し,それを補うために南北から空気が流れ込むことで大気が収束するITCZ(熱帯収束帯)の降水域が季節によって南北に移動する際に積雪として涵養される.Tyndall氷河末端に設置したタイムラプスカメラの記録から,2回の雨季にあたる2017年9~11月と2018年2~3月に確認された降雪量はわずかであった.降雪量の少ないケニア山では,雪崩や吹き溜まりなどの地形効果による涵養が期待できないため,今後降雪量が継続的に減少すれば氷河の消滅は避けられないだろう.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334682878080
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_116
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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