愛知県豊明市のケア供給体制にみる協同空間

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タイトル別名
  • Co-productive spaces of the care supply system in Toyoake City, Aichi Prefecture

抄録

<p>Ⅰ.はじめに</p><p> 従来の地理学は,経済空間や公共空間,生活空間といった別個の空間を対象としてきた。それぞれの空間の主要なアクターとして,市場(民間企業),公的機関,家族やボランティアが位置づけられ,個々の行動原理とその空間的帰結が議論された。しかし近年,いずれの空間においても満たされない多様かつ個別化する生活ニーズが増えてきた。ここで対象としたいのは,個々の空間では対処しきれないが,複数のアクターが協同して潜在的な生活ニーズに対応することで事業化を目指す動きである。こうした従来の個別の空間とは異なり,複数のアクターがそれぞれの強みを発揮して,協同で生活を支える空間を「協同空間」と呼ぶ。</p><p> 地縁・血縁に基づく支援が期待しにくい都市部では,核家族化やコミュニティの希薄化による社会的孤立問題がケアニーズとして潜在化しているとされ,多様なアクターの協同によって対処しうる。そこで,本発表は,都市部のケアニーズに対応している愛知県豊明市のケア供給体制を事例として,協同空間の可能性と意義を論じてみたい。</p><p></p><p>Ⅱ.豊明市におけるケア供給体制の展開過程</p><p> 豊明市は愛知県のほぼ中央に位置する名古屋市のベッドタウンである。前期高齢者に人口の山があり,今後10年間で後期高齢者の急増が予想されるという地域特性をもつ。医療資源は豊富であるが,訪問系の介護資源に乏しく,介護行政を担う自治体にとって,高齢者を中心に在宅生活のための環境整備が課題となっている。</p><p> こうした課題は市内の組織や企業にとって共通している。藤田医科大学では,地域包括ケアを教育に導入するため,2012年に豊明市と包括協定を締結した。新設された地域包括ケア中核センターは,医療介護の連携支援の拠点と位置付けられたが,住まいや予防,生活支援の拠点整備が課題であった。そこで豊明市と,団地の空き家対策や高齢化に苦慮し,医療福祉拠点整備を目指すURの三者が連携し,2015年に「ふじたまちかど保健室」を設立し,健康相談や介護予防の拠点とした。2016年以降,隔週で開催されている「多職種合同ケアカンファレンス」は,保健室の拡大版ととらえられており,中核センターが設置した豊明東郷医療介護サポートセンターと豊明市によって共同で運営されている。実事例から,生活課題や自立支援の手法が医療介護専門職,行政や民間企業に共有される。生活支援コーディネーターは毎回出席しており,回数を重ねるごとに地域資源への理解と課題解決能力の向上が図られる。</p><p> また,一人の困りごとをお互いに支えあう取り組みである「ちゃっと」は,市と3つの協同組合との共同運営によって,2017年に開始した。「ちゃっと」に配置された6人の生活支援コーディネーターが窓口となり,新規の利用希望には自宅を訪問したうえで生活サポーターに支援を依頼する。利用はチケット制で30分以内は250円で利用できる。豊明市には従来,協同組合が核となった住民主体の支え合いの仕組みがあった。そのため,市長のリーダーシップのもと,医療生協が事務局となって,事業開始当初から200人の生活サポーターが登録した。依頼内容はゴミ出しや除草,買い物・通院支援が多いが,処方薬の受け取り代行もみられる。利用者の同居家族への支援も可能である。</p><p> 加えて,豊明市では交通弱者対策を行うアイシンなど,18の民間企業と公的保険外サービスの創出・促進に関する協定を結んでいる。いずれの協定内容も地域に密着した健康寿命の延伸につながる活動としてとらえられている。</p><p></p><p>Ⅲ.協同空間の意義と可能性</p><p> 自治体は地域の課題を熟知し,既存の支え合いの仕組みや企業活動を生かしながら,市民の生活を支える,ローカルな協同空間のプラットフォームを下支えしている(図)。とりわけ,住民のニーズの精確な把握と関係者間の共有を可能とするコーディネーターの存在が,各アクターの強みを発揮した,行動原理に基づく目的の追求を可能にしているものと考えられる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334682879744
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_12
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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