高精細地理情報を用いた斜面崩壊と植生景観に関する研究

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  • Studies on landslides and vegetation landscape using high-definition geographic information

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 湿潤変動帯に位置する日本では豪雨や地震等に伴い斜面崩壊が頻発する.斜面崩壊は土砂災害を引き起こし,崩壊土砂の流出は流域全体に影響を与える.また斜面崩壊は主要な植生の攪乱要因であり,崩壊跡地での植生回復は,斜面の安定性や生態系を検討する上でも重要である.これまで,広域を時空間的に高精細に観測する技術の限界から,個別の崩壊事例や大規模な斜面崩壊を対象とした研究が多かった.</p><p> 近年,急速に発展するドローンやレーザースキャナ,ハイパースペクトルカメラ等の技術は,蓄積された過去数十年の空中写真や衛星画像と組み合わせることで,小規模な斜面崩壊地を含めて発生場の特徴や斜面崩壊が植生景観に与える影響を時系列で明らかにする強力な手段となる.本発表では,最近の共同研究の進展により得られた,高精細地表情報を用いた斜面崩壊と植生景観との関係,および今後の取り組みの方向性について紹介する.</p><p></p><p>2.対象地域と手法</p><p> 対象地域は熊本県の阿蘇火山である.阿蘇火山では,近年繰り返し降雨や地震に伴う斜面崩壊が発生した(例えば,1990年豪雨,2001年豪雨,2012年豪雨,2016年熊本地震).阿蘇火山は巨大火砕流噴火によって形成されたカルデラと,その中央に中央火口丘が存在する.研究対象の仙酔峡の斜面は,中央火口丘起源の降下テフラ累層に覆われている.また阿蘇山には日本最大級の草原が広がるが,その景観は草地の放棄や森林化等により近年急速に変化している.</p><p> 2012年豪雨以降,ドローンを用いてSfM-MVS写真測量やレーザー測量による斜面崩壊地の分析を行ってきた.また現地調査と合わせてコンステレーション衛星画像やハイパースペクトルカメラも用いて崩壊跡地の植生回復を分析した.</p><p></p><p>3.斜面崩壊地の特徴と植生回復</p><p> 高精細地形データを用いて小規模な崩壊地も含めて分析した結果,2012年豪雨ではこれまで指摘されてきた土砂流出量よりも約10倍大きい土砂流出を解明した.従来の航空写真等では見逃されていた小規模な斜面崩壊が,土砂流出に大きな影響を与えていた.また2016年熊本地震に伴う斜面崩壊地は,2012年豪雨によって崩壊した斜面の上部のみに集中していた.過去の豪雨に伴う斜面崩壊の有無が,次の地震に伴う斜面崩壊の発生しやすさに与えた影響が明らかとなった.また,崩壊跡地では急速に植生が回復し,2023年には多くの崩壊跡地で90%以上の植生回復が明らかとなった.</p><p> 対象地域では,放棄された草地や森林域でも過去繰り返し斜面崩壊が発生してきた.様々な時空間スケールで斜面崩壊発生場の特徴と土地利用の変遷を検討し,斜面崩壊が植生景観に与える影響と土砂災害脆弱性評価が課題である.</p><p></p><p>謝辞:本研究は,科研費・基盤研究(B)「高精細地表情報を用いた植生景観の定量的把握と土砂災害脆弱性の評価」(23H00725),および基盤研究(B)「多次元高精細地表情報を用いた流域内地形-植生系のconnectivityの研究」(21H00625)の助成を受けたものである.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334682884992
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_130
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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