長野県志賀高原田ノ原湿原における後期更新世以降のテフラ層序と年代

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  • Tephro-stratigraphy and chronology since the Late Pleistocene at the Tanohara Peat Bog, Shiga Highland, Japan

抄録

<p>Ⅰ.はじめに</p><p> 亜高山帯域では,オオシラビやトウヒ,コメツガなどから構成される亜高山帯針葉樹林,落葉低木やササ草原などからなる偽高山帯の植生が広がっている。これら亜高山帯域における植生の差異については,これまで多くの研究がなされてきた。とくに,守田(2000)では,高山帯域や亜高山帯域における花粉分析結果の比較から,各山岳では完新世中期までは偽高山帯の植生景観が広がっており,それ以降に針葉樹林が形成されたことを明らかにした。しかし,各山岳における針葉樹林の形成時期には時間差が認められており,その形成要因は未解明である。</p><p> 一方,高山帯や亜高山帯における放射線炭素年代測定の結果については,年代値に大きなズレが生じることが報告されている。すなわち,高山帯域や亜高山帯域の環境変遷史を解明するためには,放射線炭素年代測定だけではなく,火山灰編年法などの複数の年代法に基づく堆積年代の推測が必要である。</p><p> そこで本研究では,長野県志賀高原田ノ原湿原(標高1610m)においてボーリングコア試料を採取した。そして,このコア試料における泥炭バルク試料についてAMS法による放射線炭素年代測定を実施した。さらに,湿原堆積物に挟在するテフラ層について火山ガラスの形状や鉱物組成,屈折率の測定結果を基にテフラの対比を行った。本報告では,これら結果を報告するとともに,本研究によって新たに示された亜高山帯域での古環境研究の意義や問題点を明確にする。</p><p>Ⅱ.試料と方法</p><p> 本研究では長野県志賀高原田ノ原湿原の中央部の2地点から不攪乱のボーリングコア試料を採取した。コア試料は実験室にて半割し,堆積物の記載と写真を撮影した。コア試料のうち状態の良い長さ297.5cmのTN02コアについて測定・分析を実施した。TN02コアは,下位より深度297.5〜260cmが砂質シルト層,深度260〜234cmが軽石層,深度234〜8cmが泥炭層、深度8cm〜地表までがミズゴケ層となる。TN02コアから4点の泥炭を採取し,14C年代測定をに依頼した。泥炭層中には肉眼で識別できる8枚のテフラ(T1~7,T9)が挟在していた。これらのテフラ試料は椀がけ法と超音波洗浄によって水洗した後に,実体顕微鏡を用いて火山ガラスの形態と有色鉱物の組成を調べた。さらに,肉眼で識別できないクリプトテフラを検出するために,泥炭層を約2㎝間隔で切り出して同様の方法で水洗し,1枚(T8)のテフラを検出した。これら9試料のテフラ試料は温度変化屈折率測定装置によって各試料の火山ガラスの屈折率を測定した。</p><p>Ⅲ.結果と考察</p><p> 14C年代測定の結果,深度215~217cmの泥炭で10380-10655 cal BP,深度182~182cmの泥炭で5925-6180 cal BPの年代値が得られた。</p><p> テフラ分析の結果,T1(深度13~14.5cm)は軽石型火山ガラス(Pm)で,屈折率はn=1.512-1.519であることから,浅間Cテフラ(約1.6ka)に対比される可能性が高い。T3(深度165~167cm)はPmで,屈折率はn=1.496-1.499である。さらに,酸化角閃石を含むころから,妙高大田切川テフラ(約4.8ka)に対比される。T5(深度174.5~175.5cm)はPmでn=1.510-1.519であり,浅間平標1/浅間平標2テフラ(As-T1/T2)に対比される。</p><p> T6(深度177~178.5cm)はPmで,屈折率はn=1.496-1.500である。また,酸化角閃石を含むころから,妙高赤倉テフラ(約4.8ka)に対比される。T8(深度186~187cm)はバブルウォール型火山ガラスで,屈折率はn=1.502-1.513である。また褐色火山ガラスを含むことから,鬼界アカホヤテフラ(約7.3ka)に対比される。T9(深度234~259cm)はPmで,屈折率はn=1.500-1.503であることから,浅間草津テフラ(約15.0ka)に対比される。</p><p> なお,T2(深度25.5~26.0cm)とT4(深度171~172cm)はPmで,それぞれ屈折率がn=1.499-1.503とn=1.497-1.502あった。T8(深度186~187cm)はPmで,屈折率は1.518-1.527であった。これらのテフラを既知のテフラに対比することは困難である。</p><p> これまで田ノ原湿原は塚田(1953)により花粉分析資料が公表されているものの,14C年代値やテフラ年代に基づく編年がなされていない。このような中で,守田(2000)では田ノ原湿原の堆積物は完新世中期以降とされているが,本研究の成果では後期更新世まで遡る結果が得られた。今後,堆積物の詳細時系列に基づく古環境データを構築することで,亜高山帯針葉樹林の拡大過程やその要因などの課題を解明できる可能性が高い。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334682893056
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_149
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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