韓国の「縮小都市」における中心商業地の構造変化

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タイトル別名
  • Structural changes in a central commercial area of a shrinking city in South Korea
  • -A case study of Namwon City, Jeollabuk-do-
  • -全羅北道南原市の事例-

抄録

<p>1.研究課題と目的</p><p> 近年,多くの先進諸国において人口減少や脱工業化が進み,都市の縮小がみられる。韓国においても将来的な人口減少への危機感から,「縮小都市」への関心は高い。韓国でも日本以上に地方都市の衰退が懸念されているものの,日本の地方都市にみられるような「シャッター商店街」のような現象は韓国では起こりにくく,店舗の激しい入れ替わりによって,市街地の活況や構造は縮小しつつも維持されている。韓国の「縮小都市」を定義するいくつかの研究の中で,グほか(2016)は,韓国の77市のうち20市を「縮小都市」として抽出している。本研究の目的は,「縮小都市」として位置づけられる韓国の地方都市の中で,全羅北道南原市を研究対象地域とし,中心商業地の構造変化を,都市の骨格をなす主要施設の立地と店舗構成から明らかにすることを目的とする。韓国行政安全部が2021年に指定した「人口減少地域」にも南原市は含まれている。</p><p>2.研究対象地域の概要</p><p> 南原市は韓国・全羅北道の南東部にあり,小白山脈の西となる盆地内に位置している。同市は,南東側は慶尚南道,東側は全羅南道と接している。盆地に位置するため,全羅北道の全州市や,光州広域市などの大都市とは隔絶して独立した都市圏を形成している。一方で南原市は,古くから交通の要衝にあって,内陸の関門としての文化的・経済的接触地帯であった。現在でも道路交通として,2つの高速道路が交差するなど,隣接都市圏へのアクセスは良い。鉄道交通として,全州と麗水を結ぶ湖南線が走る。南原駅は市街地の北側に位置していたが,現在は市街地から大きく離れた西部に移設された。南原駅はKTXの停車駅でもあり,ソウルと直通している。観光資源として,「春香伝」の舞台として有名な広寒楼苑が市街地内に位置している。南原市の2015年人口は80,499であったが,2022年では75,259と,短期間に6.5%減少している。</p><p>3.調査の方法</p><p> 韓国の商業地における店舗の入れ替わりは日本に比して頻繁で,その新陳代謝が都市を活気づける要因ともなっている。そうした変化を既存の資料から明らかにすることは難しく,本研究では橋本ほか(2018)の調査方法を用いて中心商業地の店舗構成を明らかにすることを試みた。それに加えて,韓国の地方都市の都市構造において,その変化を把握するためには,公共施設などの移転との関係を理解する必要がある。それらも含めた南原市の中心商業地の現況について,関連機関への聞き取り調査を行った。</p><p>4.中心商業地の構造変化</p><p> 南原市の中心商業地は,盆地を北東から南西に流れる蓼川の北岸に位置し,一帯は方形上の道路構造をなしている。中心商業地の骨格をなすのは,東西に延びる南門路であり,この通り沿いに商業施設が最も集積している。南門路の南部中央に広寒楼苑が位置し,観光の拠点となっている。市街地の南西部に公設在来市場が立地しており,ここでは五日市が開催されている。南門路の北側では,旧南原駅から南に延びる香丹路周辺に市庁舎が立地していたが,1990年代に北東1kmの位置に移転したことで,都市の中心が移動した。共用バスターミナルは中心商業地と新市庁舎との中間地点に位置する一方,高速バスターミナルは近年まで,新市庁舎のさらに東側となる南原ICに近い位置にあって,ここにはロッテの大型マートも立地している。</p><p> 調査の結果から,中心商業地の東西軸である南門路沿いには,スポーツ用品店をはじめとして同業種の店舗集積があり,人口規模に比して商業地の活気が維持されているように見える。一方で,鉄道駅や公共施設が移転した市街地の北側地域では,空店舗などの低未利用地も目立つ中で,リモデリングしたカフェ等の出店もあり,土地利用再編の萌芽がみられる。上記のエリアでは,商業集積地区と在来市場での業種によるすみ分けがなされている一方,カフェなどの新しいタイプの飲食店は移転した市庁舎のある地区に新規の商業集積を形成しており,商業機能の役割分担にも注目する必要がある。</p><p> 本発表はJSPS科研費・基盤研究(B)『地方活性化に向けた韓国地方都市の時空間ダイナミズムに関する研究(課題番号:22H00761)』の助成を受けた。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334682917888
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_195
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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