五島列島福江島における潜伏キリシタン集落の立地と視認性―仏教集落の比較を通して

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タイトル別名
  • Location and visibility of Hidden Christian villages in Fukue Island, the Goto Islands: Comparison with Buddhist villages

抄録

<p>1. 背景と目的</p><p>長崎県五島列島では,歴史的背景により,原住者を中心に形成された仏教集落と18世紀初頭に長崎県本土から移住した潜伏キリシタンを中心とする集落が分布している.先行研究では,江戸時代から明治時代初期にかけて歴史的経緯が明らかにされ,信仰や集落形態など民俗史が整理されてきた.これらを踏まえて,原ほか(2023)は,五島列島福江島岐宿地区の二つの集落を対象に,景観や社会経済的な特徴と両集落の自然環境との関わりや,両地域間での災害リスクの違いを明らかにした.そこで本研究では,五島列島における生業,人々の移住定住,災害リスクといった地域社会経済を理解する前提となる,潜伏キリシタン集落が立地する地理的条件を整理する.</p><p></p><p>2. 調査地域と方法</p><p>調査地域は五島列島福江島において潜伏キリシタン26集落と,同じまたは隣接する地域(郷)にある仏教14集落である.これらの地域を対象に航空写真を判読して地形分類図を作成し,集落立地の特徴を分析する.また集落の「潜伏」程度を把握するため,QGISのVisibility Analysisプラグインを利用し,外海からの集落の視認性を計測する.</p><p></p><p>3. 集落が立地する地形と視認性</p><p>地形分類により,潜伏キリシタン集落の多くは小さな入江に,一部は溶岩台地上に位置することがわかった.また,同じ地域内の集落に着目すると,仏教集落が谷底平野,溶岩台地上,岬周辺に位置するのに対して,潜伏キリシタン集落は入江に位置していた.仏教集落が浜の後背に立地する場合には,潜伏キリシタン集は溶岩台地上や山地斜面に位置していた.潜伏キリシタン集落は,地形的制約によって仏教集落から視認性が悪い場所に位置することが多いが,外海からの視認性は良いものもあった.</p><p>以上の結果は,生活を営む上で条件の良い場所には既存の住民がいるものの,潜伏キリシタンの人々が潜伏を優先せず,次点に良い場所を探し選択的に居住していたことを示唆する.例えば岐宿地区の溶岩台地上では,仏教集落を囲むように東西それぞれに潜伏キリシタン集落が位置していた.溶岩台地は麦や大豆の栽培に適した土地であり,福江島東部では既存の住民によって開発が進んでいたが,その他の地域では人手が不足している事情があった.潜伏キリシタンにとっては,地主が仏教徒で,信仰発覚のリスクや差別があったとしても,農業に従事できることは生活の維持と信仰の維持にとって重要であったと考えられる.</p><p>福江島に隣接する久賀島では,潜伏キリシタンの人々を開拓移民として受け入れ,既存の仏教集落と共存できる場所に移住させ,生業において互助関係が構築された(長崎県世界遺産課 2022).佐世保市黒島では,仏教集落が位置しない南側に潜伏キリシタン集落が位置する.ここでは,台風等の災害リスクを軽減させるだけでなく,外海から視認しにくくするために大木が植えられている(Yang 2020).</p><p>本研究より,福江島の潜伏キリシタンは視覚的に潜伏したわけではなく,むしろ生活環境に適したより良い場所に移住していたことが示唆された.ただし,結果として仏教集落と比較すると,生業にとって相対的には不利で,災害リスクも高い場所に位置しているといえる.</p><p></p><p>参考文献</p><p>原裕太ほか2023.日本地理学会発表要旨集104.doi:10.14866/ajg.2023a.0_155</p><p>長崎県世界遺産課 2022. 18p. Yang JaYeon 2020.地域と教育 19. pp.1-16.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334683017344
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_288
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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