沿岸活断層の上下変位速度の求め方について

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  • On the evaluation method of the vertical displacement rate of active faults along coastlines

抄録

<p>1. はじめに</p><p>日本列島の多くの場所で,海岸に平行して活断層が存在する.しかし,その平均変位速度を求めた研究例は多くない.海陸境界に分布する活断層の上下変位速度を算定する方法について検討する.</p><p>2. 問題の所在</p><p>海陸境界の活断層については,従来海成段丘の旧汀線高度など旧潮位指標を基に隆起側における相対隆起速度を算定する方法と,沈降側の海底堆積物を対象とする音波探査とボーリングを併用した海底地質調査法によって,変位速度が求められてきた.しかし,海陸にまたがる構造全体やごく浅海の活断層の変位速度を求めた研究例は少ない.ここでは海陸境界断層の上下変位速度を求める2つの方法を提案し,議論を求めたい.</p><p>3. 上下変位速度算定の2つの方法</p><p>3-1. 最終間氷期海成粘土層上面を変位基準とする方法</p><p>最終間氷期最盛期(MIS 5e)の海面高度は,現海水準よりも数m高かったため,至る所で当時の海成層が陸上まで追跡できる.特に内湾に面する河口段丘(小松原,2020)では,地表踏査やボーリングによって海成粘土層(プロデルタ堆積物)上面を正確に把握できる.それと海底ボーリングを組み合わせることによって,ほぼ同一期に一連の堆積面として形成された基準面の比高を明らかにし,最終間氷期以降の上下変位量を算定することは可能である.しかし,プロデルタ堆積面はどこでも把握できるとは限らないことが難点である.</p><p>3-2. 旧潮位指標と古水深指標化石に基づく方法 海底堆積物について貝形虫,底生有孔虫,貝などの古水深指標化石によって古水深を把握し,地殻変動を論じることは可能である(たとえば増田,1998).同一期に形成された陸側の隆起旧潮位指標と海底堆積物の古水深を比較することによって上下変動量を算定することは,原理的に可能である.</p><p>3-3. 最終間氷期海成粘土層による伊勢湾断層の変位速度 3-1の方法により伊勢湾断層の変位速度を再検討した.隆起側の知多半島西部では最終間氷期のプロデルタ粘土層上面は標高+16~32mに認められる一方,沈下側の伊勢湾西部で同層は-60~63mに分布する(岡田ほか,2000).このことから,平均変位速度は0.6~0.8m/千年と求められる.</p><p>4. 断層評価に向けた提案 食い違いの弾性論(たとえばMansinha and Smylie, 1971)の単純計算によると下限深度15km傾斜45度の逆断層で顕著な隆起が生じる範囲は,断層線から10数kmに限られる.逆に言えば,広域変動場を除き,海岸段丘が認められる場所では海岸から10数km以内に活断層が存在する可能性があると考えるべきであろう.この観点から,海成段丘が存在する地域で,活断層が存在することを前提とした調査を行うことは地震防災上意義があることと演者は考える.議論を乞う.</p><p>文献</p><p>小松原琢 2020.「河口段丘」の提案.2020年日本堆積学会プログラム・講演要旨,30-31.Mansinha. and Smylie 1971. The displacement fields of inclined faults. Bull. Seism. Soc. Amer., 61: 1433-1440.増田富士雄 1998.高密度で測定された14C年代測定値による完新統のダイナミック地層学.地学雑 107: 713-727.岡田篤正ほか 2000.知多半島西岸の伊勢湾断層.地学雑 109: 10-26.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334683040768
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_43
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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