ケニア山とキリマンジャロにおける30年間の氷河と生態系の変化

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  • Change of glacier and ecosystem for 30 years on Mt. Kenya and Kilimanjaro

抄録

<p>1.ケニア山の氷河縮小</p><p> ケニア山(5,199m)のティンダル氷河の後退速度は、1958-1996年には約3m/年であったが、1997-2002年は約10m/年、2002-2006年は約15m/年、2006-2011年は約8m/年、2011-2017年は約9m/年、2017-2022年は約6m/年であった。このまま縮小していけば、10年以内には氷河は消滅すると推測される。</p><p>2. ケニア山の生態系の変化</p><p> 氷河の後退を追うように、先駆的植物種4種は、それぞれの植物分布の最前線を斜面上方に拡大させている。とくに、氷河が溶けた場所に最初に生育できる第一の先駆種セネキオ・ケニオフィトウムSenecio keniophytumは、氷河の後退速度と類似する速度で前進している。長年、第一の先駆的植物種はセネキオ・ケニオフィトウムであったが、2016年と2017年は氷河末端に一番近い場所に生育していたのは地衣類のチズゴゲだった。</p><p> コロナ禍で3年ぶりに調査できた2022年は、氷河末端から、先駆的植物種7種の最前線の個体までの距離が、2019年とほぼ同じであったことには驚かされた。7種がほぼ同じ速度で前進していることになるが、このような前進過程は過去30年間の調査で一度もなかった。</p><p> 1996年に氷河末端に接して設営した永久区画において、2011年にはセネキオ・ケニオフィトウムの個体数と被度が著しく増加していた。氷河が消滅したばかりの氷河末端付近では、植物の個体数と被度が急速に増加したが、氷河が消滅してから10年以上経つと、その増加傾向は鈍化した。</p><p> ヘリクリスム・シトロスピヌムは、これまで氷河末端付近では観察されていなかったが、2009年に標高4470mのラテラルモレーン上で初めて生育が確認された。この種の分布変化は、気温上昇と直接関係があると推測される。</p><p> 大型の半木本性ロゼット植物であるセネキオ・ケニオデンドロンの2個体からそれぞれ3カ所の枯葉を採取し、それらの放射性炭素年代測定の結果、セネキオ・ケニオデンドロンの2個体の成長速度は、それぞれ3cm/年と4.5cm/年であった。高さ5mのセネキオ・ケニオデンドロンの樹齢は100年以上と考えられる。</p><p>3.キリマンジャロの氷河縮小</p><p> キリマンジャロ(5,895m)の氷河は近年急速に後退している。キリマンジャロの氷河の後退は、氷が直接気化する昇華によっていて、気温上昇による融解の影響はあまり受けていないとされてきた (Kaser and et al., 2004) 。実際に、2000年頃まではキリマンジャロではそのような氷河縮小の形態である階段状の氷河や氷壁が見られたが、近年は、大量の氷柱が見られるなど、昇華による氷河縮小より、融解による氷河縮小のほうが進行していることが推察される。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334683044096
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_49
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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