地理教育におけるケイパビリティ・アプローチの探索

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  • Exploring the Capabilities Approach in Geography Education for Well-being and Agency Applications
  • ウェルビーイングとエージェンシーの活用に注目して

抄録

<p>1.はじめに</p><p>ジオ・ケイパビリティズ(GeoCapabilities)・プロジェクトの展開において,「力強い知識(Powerful Knowledge)」や「カリキュラム・メーカー」として教師の役割を強調した第2期(2013~17年)に比べ,授業実践をも視野に入れた第3期(2018~21年)では残されたカリキュラム・メーキング(の3要素の一つである学習者により注目を集めるようになった.本発表でも学習者に焦点を当てて,ケイパビリティ・アプローチに基づく地理教育について論じたい.そのため,最近今後の教育の方向性を論じるキーワードとしてよく耳にする「ウェルビーイング」と「エージェンシー」に注目する.これらの用語は,OECD Future of Education and Skills 2030 プロジェクトで提案された学習の枠組みである「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」において,それぞれ2030年教育目標と学習者の主体性を示すために用いられ,これから世界各国の教育政策へ多く影響を与えると考えられる.そこで,本発表では,これらが一体どのようなものであり,これからの地理教育を考える際にどのように活用すべきかを,ケイパビリティ・アプローチの理論から考察する.</p><p>2. ケイパビリティ・アプローチとウェルビーイング</p><p>インド出身の経済学者・哲学者であるアマルティア・センによって提唱された概念である,ケイパビリティとは,「『様々なタイプの生活を送る』」という個人の自由を反映した機能のベクトルの集合として表す」ものであり,ここでいう機能とは,「ある状態になったり,何かをすること」を意味し,「『適切な栄養を得ているか』『健康状態にあるか』『避けられる病気にかかっていないか』『早死にしていないか』などといった基本的なものから,『幸福であるか』『自尊心を持っているか』『社会生活に参加しているか』などといった複雑なものまで多岐にわたる」と説明されている(Sen 1992=2018:67-68).このことから人々の生活の質としてウェルビーイングを評価し,比較できる効果的な指標となる.一方,センと共にケイパビリティ・アプローチを開発したマーサ・ヌスバウムは,「単にケイパビリティを比較のために用いられるだけではなく」,「人々が政府に対して要求する権利を持つ中心的基本原理となりうる」概念として捉えている(Nussbaum 2000=2005:14).そして,①生命,②身体の健康,③身体の不可侵性,④感覚・想像力・思考力,⑤感情,⑥実践理性,⑦連帯,⑧ほかの種との共生,⑨遊び,⑩自分の環境の管理の10項目を中心的ケイパビリティのリストとして提示した(Nussbaum 2000=2005:92-94).このような具体的リストを提案することにより,ケイパビリティ・アプローチは,世界各国の開発状況を分析し,ウェルビーイングの実現に向けた人間開発を促す枠組みとして用いられ,理論のみならず,実践にも大きな影響を与えるようになった.</p><p>3. ウェルビーイングとエージェンシー</p><p>センは人々の価値や繁栄を評価する指標の4つの要素を挙げている.まず,社会における人の立場は,「その人の実際の成果」と「それを達成するための自由」の2側面から評価できる(Sen1992=2018:53).また,個々人の境遇を評価する次元では,「エージェンシー」と「ウェルビーイング(福祉)」の2側面がある(Sen 1992=2018:97).①ウェルビーイングの成果:その人自身の価値実現の成果(機能の総合).②ウェルビーイングの自由:その人自身の価値実現のための選択可能性(ケイパビリティの反映).③エージェンシーの成果: その人自身の価値を超え,他の人々への影響力を持つ目標実現の成果.④エージェンシーの自由:その人自身の価値を超え,他の人々への影響力を持つ目標を追求する自由.センは,①ウェルビーイングの成果より,そのための②自由やその人自身の価値を超えた③④エージェンシーの方を強調している.このような自由や行為主体性を重視する点はヌスバウムも同様である.ヌスバウムは,中心的ケイパビリティのリストの中で,個人が自らの生の計画に批判的に省察できる能力としての⑥実践理性および共通のウェルビーイングの実現に向けた他者との⑦連帯について,「他のすべての項目を組織し,覆うものであるために特別に重要であり,それによって人は真に人間らしくなる」(Nussbaum 2000=2005:96-97)と主張する.</p><p>4.ウェルビーイングとエージェンシーの地理教育への応用</p><p>学会当日のシンポジウムでは,第3期ジオ・ケイパビリティズ・プロジェクトの理論の考察などを通して, 地理教育におけるウェルビーイングとエージェンシーの活用を示す。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334683047808
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_62
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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