地理学会における組織的な災害対応と情報共有の重要性

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タイトル別名
  • Significance of Organized Disaster Response and Information Sharing in AJG

抄録

<p>1. 組織的な災害対応の重要性</p><p> 2001年の日本地理学会災害対応委員会発足後,本委員会では地理学的視点から災害に関する様々な取り組みを継続的に行ってきた。その位置づけと役割は,災害に関心を持つ日本地理学会会員間の情報の共有と発信,会員による自主的な災害調査の組織的支援,マスコミ対応,防災学術連携体のような災害に関連する組織や他学会との連携,地理教育の防災分野への対応など,多岐にわたる。</p><p> これまで上記の活動のために中心的な機能を果たしてきたのは,2002年に立ち上げられた災害対応委員会のウェブサイトである。また,全国の地域拠点を含む全ての災害対応委員を結ぶメーリングリスト(以下,ML)のほかに,会員なら誰でも登録することができる「災害対応グループML」も整備して日頃からの情報共有を行うことにより,発災時における情報収集力の強化に努めてきた。</p><p> その結果,2011年の東日本大震災,2016年の熊本地震,2018年の西日本豪雨,2019年の東日本台風(台風19号),そして2024年の能登半島地震などの災害時には委員会ウェブサイト内に災害緊急速報ページを構築し,ML等を通して集まった情報を委員内のチェックを通した上で,速やかな公開につなげることができた。このページで公開された情報にもとづき,情報提供者や委員会には各種メディアから多くの問い合わせがあり,会員からの発信が新聞やテレビなどでの報道につながるという循環を構築できている。</p><p></p><p>2. 災害対応委員会の情報管理の現状と課題</p><p> 災害対応委員会に集まった情報や活動履歴は,現在,委員会ウェブサイト内に時系列で蓄積されている。内容は災害緊急速報だけでなく,「防災における地形用語の重要性」や地形分類図の解説といった教育的内容やこれまでに委員会で開催したシンポジウムなどの情報などを含んでおり,網羅的である。</p><p> 災害対応委員会のウェブサイトは,地理学会本体とは適切な距離を保ちながら比較的少人数で意思決定および運営を行っているため,災害緊急速報に関してはある程度迅速な対応ができるようになった。しかし,地理学の俯瞰的な視点による災害の解説や,防災に役立つ地理的知識の普及に貢献できるレベルには到達しておらず,地理学の重要性を十分に発信できていない。このウェブサイトは「災害アーカイブ」の一つとしても重要なものであり,この分野を専門とする地理学者の力を必要としている。</p><p> 2024年の能登半島地震では,広報専門委員会と連携することにより,SNSによる組織的な情報発信と,マスコミやインターネット上に掲載された地理学者の情報等を逆にこちらから収集する「メディアクリッピング」を行った。</p><p> これまで災害対応委員会としてはSNSによる災害情報の発信を行っていなかったが,ある程度学会が主となって行うことにより,災害対応委員会ウェブサイトに掲載された災害緊急速報が短時間で多くの人たちの目に触れ,地理学的な視点を伝えるのに役立っているようである。一方,メディアクリッピングにおいて収集した情報のアーカイブや,その後の公開・活用の方針を定められずにいるが,災害情報の一つとして重要な基礎データであり,今後の研究が必要であろう。</p><p> 最後に,小学校から高校までの防災教育において重要な責務を担う地理学の役割として,非災害時における災害・防災情報の共有や日常的なコミュニティの構築への貢献も重要である。そのために,大学等の研究者と小・中・高の教員が一緒に防災教育に関する教材開発を行い,その成果を共有する取り組みを組織的に進めていく事も重要であろう。地域に根ざした災害に関するコンテンツを,そこで生活する人と共に作成することは,地域の防災力の向上に役立つ。当委員会を含め地理学会全体として,より長期的な視点で仕組みづくりを行う必要があると考える。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334683055488
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_81
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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