北陸新幹線・敦賀延伸と能登半島地震

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タイトル別名
  • The Hokuriku Shinkansen Tsuruga Extension and the Noto Peninsula Earthquake
  • A Comparison with the Great East Japan Earthquake and Other Events
  • 東日本大震災などとの対比から

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 北陸新幹線は2024 年3 ⽉16 ⽇、⾦沢−敦賀間125km が開業を迎える。同新幹線としては2015 年3 ⽉の⾦沢延伸から9年ぶりの延伸となる。</p><p> 発表者は主に福井県内を対象に、開業がもたらす効果・影響の検証作業の準備を進めていた。2023年10月には東北地理学会・秋季学術大会において「北陸新幹線・敦賀延伸が福井県域に及ぼす影響(第一報)-地域医療と敦賀市民アンケートを中心に-」と題し、敦賀市の全面協力を得て実施した市民アンケートのオンライン回答分(240件中64件)などについて速報的に報告した。</p><p> 本学術大会においては、第2報としてアンケート全体の詳細な分析および開業直前の状況を報告する予定だった。しかし、1月1日に能登半島地震が発生、沿線の環境が激変したことにより、新幹線開業対応について論点を再整理する必要性を感じたため、方針を修正した。本報告においては、東日本大震災の事例などとの対比を通じて、北陸新幹線・敦賀延伸と能登半島地震の関係性について検討を試みる。</p><p>2.北陸新幹線への影響</p><p> 発災直後、テレビでは震度5強の揺れに襲われた金沢駅の電光掲示板が、激しく揺れて機能しなくなるSNS経由の動画などが報じられた。だが、北陸新幹線は橋脚が壊れるなどの被害は受けなかったとみられる。発生直後は安全確認で長野-金沢間の運行を見合わせ、富山-金沢間では4本の列車が立ち往生したが、2日午後に運行を再開した。</p><p> 新規開業区間も、確認できた範囲では大きな被害情報はない。石川県の馳浩知事は会見で1月8日、予定通りの3月16日開業を求め、その後も観光客の来訪を望む姿勢を明らかにしている。</p><p>3.地震災害と新幹線</p><p> 新幹線が地震で大きな被害を受けた事例としては、1995年1月の阪神・淡路大震災、2004年10月の新潟県中越地震、2011年3月の東日本大震災、そして2016年4月の熊本地震が挙げられる。</p><p> この中で、東日本大震災は、東北新幹線が2010年12月に全線開業を迎えて間もない、しかも春の観光シーズン直前に発生した。東北新幹線は49日間の運休を余儀なくされ、地震の直接的な被害と相まって、東北全体の観光にダメージが及んだ(植・櫛引、2021)。</p><p> 特に日本海側の秋田県と山形県、青森県の大半は、地震動の被害は軽微だったにもかかわらず、域外からは東北全体が被災地とみなされ、旅行や観光の自粛に伴う「風評被害」に苦しんだ地域もあった。東北新幹線の全線開通に合わせて2011年4~6月に「青森デスティネーションキャンペーン」が実施予定だったが、東日本大震災によって開催が危ぶまれた。しかし結局、東北新幹線の運行再開に合わせて4月23日~7月22日、「東北復興」を掲げて実施に至った。また、新幹線の運行再開は復興への動きを象徴する出来事と受け止められた。さらに、JR東日本は少なくとも2013年度まで「復興需要」の恩恵に浴した(植・櫛引、2021)。</p><p>4.能登半島地震との対比と考察</p><p> 東日本大震災の「被災地」は、発生した災害の多様性に応じて非常に複層的かつ複雑である。「被災地」の概念や空間的広がりの整理が、現象に追いつかなかった可能性を指摘できる(櫛引・2012)。</p><p> 能登半島地震においても、「能登半島」という地名や地域に関心が集中する一方、被災エリアは新潟県から福井県への広域にわたる。ただし、被害の程度は地域差が大きく、新幹線の新規開業区間は比較的、被害は軽微である。にもかかわらず、発表者の近辺を見る限り、北陸3県全体が著しい被害に見舞われている、と感じている人が多い。</p><p> 他方、北陸新幹線・敦賀延伸を視野に、地震被害の広がりや程度、影響、さらには開業対応を「沿線」という枠組みで整理しようという動きは、本稿の執筆時点では確認できていない。要因としては、被害の把握や対策も、新幹線開業対策も、「県」が基本単位となっていること、そもそも「北陸新幹線沿線を見回して情報を整理し、対応や方針を検討する」という営みの必要性が認識されていないことなどが考えられる。</p><p>5.おわりに</p><p> これまでの大規模地震災害と同様、能登半島地震の被災地も今後10年以上のスパンで、厳しい現状に対応し、新たな地域づくりに踏み出すことになる。その過程で、観光や復興に北陸新幹線は一定の役割を果たし得る。敦賀延伸の「開業効果」と「新幹線効果」をどう再整理して対応を検討するか、また、息の長い復旧・復興や地域づくりと新幹線をどう効果的に関連づけていくかが中長期的な焦点となろう。</p><p>【参考文献】</p><p>●植遥一朗・櫛引素夫(2021)「東日本大震災での高速交通機関の補完関係と復興期における動向」、 季刊地理学、73(3)、pp.164-177</p><p>●櫛引素夫(2012)「東日本大震災以降の地理学とマス・メディアの関係性の課題」、季刊地理学、64(1)、pp.12-15</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390581334683062912
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_99
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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